深海 (1)
深海

 太陽の光が頭上から降り注いでいる。降り注いでいるというようなものではない。突き刺すように痛い。
 でも太陽がぎらぎらと光を落としているのも、納得の上でここに来ているのだから、誰にも文句は言えない。
 思っていたよりは人は少なく、割りに快適に過ごせそうだ、と思っていたのに。

「あの…写真、撮ってもらえますか?」
「…じゃあ、カメラを…」

 手を差し出すと、違うんです、と言われた。

「は?」
「一緒に撮ってもらいたいんですけど…」

 ああ、そういうことですか。今日はこれで何回目だろう…。

「…いいですけど…」

 ありがとうございましたー、とうれしそうに言いながら去っていく女の子にひらひら手を振って、大きく息をつく。
 俺なんかより、もっといい男がいるのに! 見たら絶対驚くに決まってるんだけどなぁ。その本人は一緒にここに来たっていうのに、どこ行ったんだよ、全く。

「誰か探してるの?」

 振り返ると、見知らぬ女の人が笑いかけてきた。スレンダーな人で、スタイルはよい方だと思う。グラマーって感じではなかった。俺としては美人かなぁ、と思うぐらいの人だったが、すれ違って行く男達の視線を見る限り、かなり上のランクに入れられるのだろう。年は俺より上かな、セフィロスと同じぐらいと思われた。

「探してはいませんけど。どこかにいるのはわかってるんで。あなたは?」
「ああ、私? 私は二人で来たけど…」
「けど…?」
「帰りは一人かな…」

 その人はちょっと寂しそうに笑った。
 二人で来て、別々に帰るって珍しいよなぁ。遠距離恋愛なのかな。別々の所に住んでて、ここで待ち合わせ? でも、なんかなぁ。

「それって…」
「あ、いいの、気にしないで。ごめんね、話しかけちゃって。一人で来てるんだったら、ちょっと遊んでもらおうかな、と思ったけど、君みたいな人、一人で来るわけないもんね」

 一人で来てはいないけど、誰かさんのせいで今は一人になってしまっている。

「俺でよければ、お相手しますけど…」
「ううん、いいの、いいの。ごめんね、ほんとに」

 その人はお辞儀をすると、駆け出していった。
 何だか、気持ちがすっきりしないんだよなぁ。何もなければいいけど…。



 砂浜に近い所で泳いでいたものの、声をかけられるのが半端じゃなく頻繁で、俺は自分の好きなように泳ぐ事もままならなくなった。
 仕方がない。
 貸しモーターボートを借りて、沖の方まで飛ばす。
 砂浜から遠ざかるほど、人はまばらになって、ゆったりと泳げるスペースができてきた。
 あれ、モーターボートがある。
 視線の先に一台のモーターボートが浮かんでいた。誰も乗っていなかった。
 こんな所に乗り捨てってことはないだろうし、多分、使用主は俺の知ってる人だろう。
 しばらく待っていると、海の底のほうから水面に黒い影が近づいてきた。
 光を受けてきらきら光る髪の毛を持つのは、やっぱりあの人ぐらいだろう。
 水面に顔を出すのと同時に声をかける。

「一人で何やってんの?」
「……どうして、ここに……?」
「俺の質問に答えてないよ」

 モーターボートに上がりながら、銀色の髪の男は大きく息を吐いた。

「浜辺の女の子達を放ってきて、よかったのか?」
「だから、俺の質問に答えてないってば」
「浜辺にいるのは暑いだろ?」
「浜辺にいたら、女の子たちと戯れられたのにぃ。『セフィロス様~』っていう黄色い声も聞けただろうし」
「…俺は興味ない…。それに、お前は代わりに聞いてきたんだろ?」
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃないよ」

 セフィロスは頭を軽く振って、耳から水を抜いている。珍しく髪の毛を一つにまとめていて、なんだか別人のようだった。
 でも、どんな格好でもかっこいいんだよなぁ、この人。
BACK