トレモロ (8)
トレモロ

「たっだいま~、ザックス代返ご苦労!」

 スキップスキップで自分の部屋に入る。

「お前なぁ、心配したんだぞ」

 コートを脱いでパジャマに着替えながら、俺はこらえきれなくてニヤニヤしてた。
 だってさ。おれってば…。

「えへへ~」
「お前そんなに嬉しかったのか」

 え? ザックス知ってるの?
 流石、神羅兵一の地獄耳!

「わかる? だってさぁおれ…」
「お前がセフィロス好きなのは俺も知ってたけど。その壁のポスターといい…」
「だって好きなんだもん。あ、でも、いらなくなっちゃったかなぁ」

 絶対捨てないけどね。壁のセフィロスはクールな顔で一点を見つめている。
 むかし、ニブルヘイムに神羅兵募集の人たちが来たときに無理言ってもらった兵士募集のポスター。
 この当時でいうとセフィロスは17か。かっくいいなぁ、もう!

「にやけすぎ。気持ち悪い。さっさと寝ろ。明日から一時間早起きしなきゃなんねぇだろ」
「え? …なんで?」
「おまえなぁ、お前が浮かれてる理由でだよ」
「え? なにがだって俺が浮かれてるのはセフィロスさんの・・・に慣れたからで」

 流石にそこを大きな声で言うのは憚られた。
 上目遣いでザックスを伺う。
 ザックスはもうしょうがねぇなあ、とばかりにごみ箱の中から一枚の紙を取り出した。
 くしゃくしゃになってるそれを広げると、

「おまえなぁ、玄関脇の掲示板に張ってあっただろ?」

 その紙に書かれていた文字。それは、

『辞令 クラウド・ストライフ
 ソルジャーセフィロスのルームキーパーに明朝6時づけで任命』

「な…、なにこれ…」
「ああん? それがうれしくってお前はさっきから浮かれてるんだろ? ニヤニヤしやがって気持ち悪い。明日に備えてさっさと寝ろ」

 そう言うと、ザックスは布団を頭から被って寝てしまった。
 ど…どういうことなんだ?
 専属ってそういう意味なのか?
 教えてくれ! セフィロス…!

「うそぉぉぉぉ」

 ぺたんと床にしゃがみこんで、俺は明日からの仕事の内容と、セフィロスに何を聞こうかを考え、結局眠れなかった。


END
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