トレモロ (1)
トレモロ

「なんでこうなるんだよおぉー」

 森の中全速力で駆けてゆく影が二つ。
 揃いのブルーの制服を着て、道なき道を走っている。
 後ろからはその三倍は有りそうなモンスターが追っている。
 俺の名はクラウド・ストライフ。入隊したての神羅兵だ。
 夢はソルジャーになること。でももうなれないかも…。

「だからいやだって言ったのに、ザックスのばかー」
「なんだとっ! 元はと言えばお前が、あっ、この洞窟入ろうぜって言ったんだろぉ」
「だって、絶対マテリアだって思ったんだもん」
「お前なぁ、マテリアと化け物の目ん玉の違いくらい気付けー」

 隣を走ってるのはザックス。えーっと名字はしらない。俺よりちょっと先輩のはずだ。
 今度ソルジャー試験を受けるらしい。でも俺より馬鹿なんじゃないかって思ってる。
 どのくらい走ったのかわからないが、後ろから追いかけてくるヤツとの距離が縮まないのは事実だ。
 目の前にはまるで漫画のように道が二つに分かれている。

「右に行け」

 指示されたとおり右に進み、ザックスは左へ。
 しかし。

「なんでこっちにくんだよう、もうー!」

 モンスターはなぜか俺の方に付いてくる。
 目がぎらぎらと大きく輝いていて月の光を反射している。

「クラウドー、後は任せたぞ! 俺、先帰ってるからなぁー」

 遠くで恨めしいザックスの声がしている。
 ばかやろー、俺は帰るどころかモンスターの夜食にされるかもしんねぇのにぃっ!
 どのくらい走っただろう。ちっとも終わりの見えてこない森に、いい加減嫌気が差してきた。それどころか少しでも足を止めれば死ぬかもしれないという恐怖感も何だか鈍ってきている。疲れた。もういいかも…、ごめん母さん。
 木の根に足を取られ身体が宙に浮いた。今までの自分の人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
 やっぱり俺ここで死ぬのかも。先立つ不幸をお許しくださぁ~い。
 思いっきりスライディングで地面に着地し、モンスターの方を向いた…が、何もみえない!?

「邪魔だ。退け」

 それもそのはずで、いきなり俺とモンスターの間に割り込んできた男の長いコートで俺の視界は一瞬奪われたのだ。
 月光を集めたように刀の先が煌く。
 切先がモンスターに向けられ、先端に光が集まる。
 柄を持つ手と添えた手から放たれた光の渦が一直線にモンスターを打った。
 見た事の無い魔法。昼のように明るい視界で、俺はやっとこの人が誰なのかを気づいた。

「セ…セフィロス…さん?」

 振り向いた怜悧な顔、冷たい碧の瞳。風に揺らめく銀色の髪。
 返り血一つ浴びずに巨大モンスターを一撃でしとめられる俺の憧れの…。

「帰るぞ」

 くるりと背を向けて言い放たれる。
 俺は呆けたまま立ち上がり、無言で森の中を歩くセフィロスさんの後について歩く。
 ああ、頭の中がパニックだ。どうしてこんな所に俺はいるんだ。どうしてセフィロスさんは此処にいるんだ?
 どうして助けてくれたんだろう。さっきの魔法はなんだろう。こんな所でこの人は一体何をしてたんだろう?

「あの…」
「黙って歩け」

 冷たい、けど噂どおりだ。端正な顔も写真でみたセフィロスさんそのままだ。
 ほんの五分程前まで自分の命が危なかった事も忘れて俺はセフィロスの端正な横顔に見とれていた。
 不謹慎だけど凄くうれしい。同じ神羅に雇われてる人間としても俺とは段違いの強さを誇るセフィロスさんは、俺達一般兵の間で一番の憧れの人だ。
 あいつらに自慢してやろっと。
 浮かれながらとことこと後ろをついてゆく。
 今、気が付いたんだけど、セフィロスさんはどうやら私服みたいだ。
 黒の光沢のあるパンツとロングのコートしか見えないけど、やっぱりセンスがいい。
 英雄って言うのは何にでも卓越してるなあ…、とかぼんやり思ってみる。
 あ、でも、私服のセフィロスさんなんて見たの俺ぐらいじゃないか?!
 っていうか、同じ神羅の寮に居てもぜんっぜん会った事なかったもんな。まあ、遠征が多い人だから滅多には帰ってこないけど。出迎えのときとかも俺、背があんましでかくないから見えないんだよね。

「何がそんなに珍しいんだ?」

 え…、そりゃあもちろん決まってるじゃないか。

「セフィロス…さん」

 セフィロスの眉間にかすかにしわが寄ったのを俺は見逃さなかった。
 怒らしちゃったよ。

「えっと、へ、変な意味じゃなくて、あのほら、セフィロスさんっていつも遠征とかでこっちにいないじゃないですか。それにソルジャーの寮と俺達の居るところって凄く離れてるし…」

 って、俺、何言ってるんだよう。ますます不快そうな顔になっちゃってるじゃないか。
 あ、あたりまえだよな。ああっ話題が無い! なにかないか、何か…。

「おっ、おれ、セフィロスさんみたいになりたいんです」

 馬鹿っ! 何言ってるんだよう、あ、でも気持ちは伝えとかなきゃ。でもそういう状況じゃないだろぉ。
 頭がパニックだ。それもこれもセフィロスさんがこんなに近くにいるから。俺の目標、憧れ、大好きな人。
 え…?
 大好き?
 い…、いやっ変な意味じゃなくて、いやその…。
 ああ、もうわけわかんねぇよぅ。

「どうしてだ?」

 さぞかし俺は真っ赤な顔をしてるんだろうな、と思う。良かった夜で。よかった森の中で暗くって。
 あ、良くないけどね。死にかけたんだから。

「あの…、その…」
「必要な事だけ端的に」

 冷や汗がだらだら出てくる。
 言っていいのか? ああセフィロスさんの意地悪っ、でも。

「セフィロスサン好きです」
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