嘘とミルクティ
嘘とミルクティ

「クラウド!」

 セフィロスはなぜか落ち着きをなくしている。

「セフィロスが出れない脅し、それはまあ、俺と別れなければ、俺の命がないとか、子供たちの命がないとか、もっと些細なこともあるだろうけれど、俺とセフィロスを引き離すのが大きな目的だと思う。セフィロスを自分のものにしたい人は、数え切れないほどいるしね」
「その通りだな。本人には自覚がなさそうだけど」
「脅迫という態度に出たというその勇気は褒めてやってもいいけど、この俺からセフィロスを取ろうなんて、100万年早い」
「…で、取り返しに行く、と?」
「当たり前だ。この俺がセフィロスを手離すと思ってるなら、相手の考えが甘すぎる」

 ザックスは満足そうにうんうん、と頷いている。

「クラウド、お前、本気で…」

 セフィロスは掴まれている方とは逆の手で、クラウドの肩を掴んだ。クラウドはそんなセフィロスの顔をじっと見つめた。

「冗談で言うようなことじゃないだろ。俺はセフィロスを『はい、そうですか』って差しだすほど、いい人には出来てない」
「ほんっとに好きなんだなぁ」

 ザックスは半ば呆れたようにクラウドに問いかけた。

「どうしようもない。こればっかりは」

 『好きだ』という言葉が意味をなさないほど、陳腐なものに成り下がっているぐらいに、クラウドはセフィロスに伝えてきた。
 それでも、溢れてくる思いを伝えるにはこの言葉しか見つからなくて、クラウドにはそれを口にする術しか、残されていなかった。
 そんな言葉を今すぐ口にしてしまいそうで、クラウドは頭を軽く振った。
 今、触れている指先が、掴まれている肩がセフィロスを感じて、身体の奥が疼き始める。

「どうしようもないほど好きなのに、どうして不釣合いになるんだろうなぁ……」

 ザックスが不思議そうに眺めてくるが、その答えをクラウドは上手く説明できなかった。

「俺にわかれば対処するけど……」
「あ、俺が思うにさ、もしかしたら、聞きたくなるんじゃないか? あえて、聞きたくなるっていうか……」
「聞かなくてもわかってる、としても、本人の声で言われたら、きゅん、とくるもんな」

 セフィロスの声で『好きだ』なんて言われたら、それはもう、一瞬で身体から脳みそから蕩かされてしまうだろう。

「そう、それだな、うん。そうだ!」

 ザックスは自分ひとり納得したように、ソファーから立ち上がった。

「俺、今から伝えてくるわ!」

 拳を握り締めて、どうやら気合満タンのようだ。

「あ、うん、エアリスによろしく……」

 クラウドはザックスの顔を見上げて、静かに手を振った。



「クラウド」
「わぁっ!」

 ベッドのシーツを交換していたクラウドは、後ろからいきなり抱きしめられた上、そのままベッドに倒された。
 何するんだよ、と抗議の声を上げるより先に、耳元で自分の名前を甘く囁かれて、全身の力が抜けてしまう。

「…セ、セフィロス……?」
「嬉しかった」
「何が?」
「昼間の……」
「あの、会話のこと?」

 セフィロスは無言でさらに強く抱きしめてきた。クラウドは自分を抱きしめる腕にそっと触れて、俺のものだからね、とはっきり言った。
 セフィロスはクラウド、と名前を呟くだけで、それ以上は何も言わない。

「セフィロスは何があっても俺のものだし、手離す気も差し出す気もさらさらない。そう簡単に奪われてたまるか!」

 クラウドは、んしょ、と身体を捻って、セフィロスと至近距離で向き合った。セフィロスの目が驚いたように見開かれていて、クラウドは少し笑った。

「さあ、これで不安が解けただろ?」
「不安?」
「そうだよ。気にしてたんだろ? あの脅迫が嘘じゃなかったとしたら、俺がちゃんと行くかどうか」
「俺は……」

 クラウドはセフィロスの唇に指先で触れて、言葉を遮った。セフィロスがその手を掴んで、じっと見つめてくる。

「不安になることなんかないよ。俺はちゃんとセフィロスの元に行くから。悪いけど、俺、自負してるんだ」
「何を?」
「セフィロスの不安を取り除けるのはこの俺だけだ、ってね」

 セフィロスは掴んでいたクラウドの手を離して、ぎゅっと抱きしめてきた。

「…これだから、俺はお前を手離せない……」

 セフィロスの震えるような声に、クラウドは胸がじん、と熱くなった。自分と同じようにセフィロスは手離したくないと思ってくれていることが嬉しかった。

「じゃあ、手離さないで」
「クラウド…」

 クラウドはセフィロスの背中に腕を回して、唇をセフィロスの耳元に寄せる。

「俺はセフィロスのものだって、思わせて…」

 吐息を漏らすように囁くと、セフィロスが急に肩を掴んできた。クラウドは強くベッドに沈まされて、すぐさま唇を塞がれる。簡単に歯列を割られ、差し入れられたセフィロスの舌が口中を嬲ってくる。そんな舌を味わうように、クラウドは自分から必死に舌を絡めた。
 脳が痺れて蕩け出しそうなほど、深く熱い口付けは続いた。
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