嘘とミルクティ
嘘とミルクティ

「ちわー」

 いつでも元気フル充電なザックスがいつもと変わらず、遊びにやってきた。
 クラウドはコーヒーをザックスの前に差し出す。
 ザックスが来そうな気がするというセフィロスの言葉に、クラウドは前もってコーヒーを用意していたのだ。

「お前、1年間の休日のうち、そのほとんどをここで過ごしているってことに気づいてるか?」

 ザックスの向かい側に座っているセフィロスが不機嫌を眉間に貯めて、睨みつけている。

「あ、そうだっけ? 旦那と呑む幸せな時間を持とうとしているだけなんだけど」

 ザックスは全く悪びれない。
 そんなザックスの態度にセフィロスは大きくため息をつく。

「それよりさ、手紙の件、解決したのか?」
「手紙?」
「ほら、カイン宛ての…」

 ザックスは大まかにエアリスから内容を聞いているらしい。エアリスは、わさわざ話さなくても世の中のことが大体わかる。細かく知ろうとすればどこまででも知ることができるらしいのだが、いつもは大まかなことしか把握しないことにしているんだそうだ。

「それなら解決ずみだ。問題なく平和解決」

 セフィロスが煙草に火を点けながら答える。

「一応、指定の時間と場所にはクラウドを行かせたが、危険なことはなかったようだ」
「凄く可愛い女の子で、家まで連れて帰ってきた。一緒にお茶した」

 クラウドがそう言うと、ザックスはマジで?と声を上げた。
 その日、クラウドは体育館の中が見える場所で、こっそりと様子を伺っていた。
 誰もいない体育館には、カインと手紙の送り主であろう少女の二人。
 二人は何も言わずに向かい合ったままだった。
 10分、20分と時間は過ぎ、30分を超えた頃、『ごめんなさい!』という声が体育館に響いた。
 頭を深々と下げた少女は、そのまましばらく動かなかった。

「…別に怒ってないから」

 カインの言葉にようやく顔を上げて、少女はもう一度、ごめんなさい、と謝った。

「いいよ、もう。すぐに嘘だってわかったし」
「私、ただ……」
「こんな嘘の脅迫状なんか出して、わざわざ呼び出して話そうとしなくても、普通に話しかけてくれればいいのに」

 ごめんなさい、とまたしても謝る少女に、カインは困った様子で頭を掻いた。

「謝るなら、母さんに謝って。嘘だとわかってはいるけれど、お父さんが絡んでるから」

 母さん、と呼ぶカインの声に、仕方なく、クラウドは二人の前に姿を現した。

「本当にすみませんでした!」

 少女はクラウドの姿を見て、特に驚きはせずに、素直に謝った。
 カインとクレフの家庭にはのっぴきならない事情があるということは学校で知らされているらしい。

「いいよ。カインと仲良くしたかったんだよな。ここで立ち話もなんだし、一緒にうちに行こう」

 そう言ってクラウドはカインと少女の手を引いて、家に帰ってきたのだ。

「もう、本当に可愛いの! お人形さんみたいでね。ツインテールでふわふわカール。甘い香りがずーっとしてた」
「そうかぁ。大きくなったら美人になるんだろうなぁ」

 ザックスが天井に視線を向けて、呟く。きっと頭の中では美人なお嬢さんが笑顔を見せているに違いない。

「ただいまー」

 玄関からリビングへと聞こえてきた声は、子供たち二人の声だった。続いて、パタパタと足音が近づいてきて、その音が止まったと同時にリビングの扉が開く。

「あ、お兄ちゃん!」

 リビングに飛び込んできたクレフがザックスの姿を見つけて、嬉しそうに声を上げた。
 ザックスは子供たちと同じ目線で遊んでくれるので、クレフもカインもよくなついているが、クレフはザックスがすごくお気に入りのようだ。

「よぉ。元気か? もてもてお兄ちゃんと一緒か?」
「ザックスさん、もてもてって何ですかね? 俺、全然もててませんけど」

 ザックスの言葉が聞き捨てならなかったのか、クレフの後ろからリビングに入ってきたカインは、文句を言いながら鞄をソファーに放り投げた。

「またまた。もててる自覚がないのは、お父さん譲りか?」

 ザックスがからかうのにカインは目を細めて、セフィロスの方をちらっと見た。セフィロスはそ知らぬ振りで煙草をふかしている。
 セフィロスは基本的に自分の容姿に一切関心がないため、人がどう思っていようが気にはしない。だから、その容姿がどれほどの人を魅了しているかなんてことは、意識したためしがない。クラウドがいくらカッコいいっていうことを力説したとしても、聞き流してしまうぐらいだ。
 だから、自分がもてているなんてことは自覚していないだろう、とクラウドは思う。

「あのお父さんにもてている自覚がないんだとしたら、それは大問題だと思いますけどね。俺はもててません、もててるのはクレフの方」

 違うよー、クレフが声を上げて自分への評価を否定した。

「あのね、僕はお友達が多いだけ。お友達だから好きっていうのと、お兄ちゃんを好きっていうのは大分違うと思う」
「おおっ!」

 ザックスがクレフの分析に感心したように声を上げる。

「こういうことはカインの方がわかってるかと思ったけど、クレフの方がわかってるんだな。そうか、そうか。お兄ちゃんはやっぱりお父さんに似てるんだな」

 ザックスはくすくす一人で笑っている。

「お言葉を返すようですが、お父さんよりは、察しがいいほうだと思いますけどね」
「ああ、まあ、それは認めよう」

 ザックスが首を縦に振るのを見かねたのか、セフィロスがおい、と声を上げた。

「ザックス。お前、俺をバカにしに来たのか?」
「とんでもない! ちょっと聞きたいことがあっただけで……」
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