嘘とミルクティ
嘘とミルクティ

 開け放たれた障子の奥に広がる光景を見て、クラウドはくるりと踵を返した。

 リビングに戻って、ソファーにゆっくりと腰を降ろす。
 遅れてリビングに戻ってきたカインが、腰に手をあて、もう、と呆れたように声を出した。

「見なかったことにしようとしたってダメだよ!」
「…15日だったか…」

 クラウドはカレンダーを見やって、また手紙の束を手にした。

「だから、お父さんは預かられてないんだよ」
「まあ、預かられてなくて良かった。あの状態で預かられてたら大変だ」
「確かにね。思考停止中だから」

 カインは、ウータイ風の部屋、通称、ウータイの間の方に視線を投げた。
 15日はお父さん、つまり、セフィロスが電池切れを起こす日だ。
 それは毎月お決まりで、この日に限り、セフィロスはグダグダになる。ぼんやりしたり、飼い猫の『にゃー』とじゃれあったりしている。
 行動が予測不能になり、ほっておくと、にゃーを洗濯機にいれたりするので、クラウドはセフィロスに目を光らせているのが常なのだが、今日はうっかり手紙の仕分けに必死になってしまっていた。

「部屋の端から端まで転がって何が楽しいのかな?」

 ウータイの間でセフィロスの行動を目撃したカインが首を傾げて不思議そうに呟く。

「普段できないことが楽しいんじゃないか? セフィロスファンにあの姿を見せたいものだ」

 クラウドは最後の手紙の束をテーブルに置いて、大きく伸びをした。

「さて、晩御飯の支度をしようかな」
「ちょっと待って! この手紙、無視していいの?」

 カインがピンク色の手紙をちらつかせるのを見て、クラウドは笑った。

「ちゃんとご指定の場所に行きなさい」
「え? 何で?」
「それはカインにあてたラブレターだから」
「これのどこが? それにもう俺が行く必要ないじゃないか!」

 お父さんはここにいるし、と不満そうにふくれているカインの頭をクラウドは撫でた。

「そもそも、本当に誘拐なら、預かってから手紙を送るものだろう? そうじゃないってことはセフィロスはどうでもいいってことだ」
「でも、それじゃこの手紙の効力は全くないよ」
「こんなことで来てくれるとはこの子も思ってないだろうさ」
「じゃあ、やっぱり行かなくてもいい気がする!」

 カインが何としても行かないでおこう、と決断しているのと、行かずにすむように算段しているのがわかって、クラウドは苦笑した。

「そんなにその女の子と話したくないのか?」
「…べ、べつに…」

 カインは少し顔を赤くして、俯いた。
 足をばたばたさせて、効力のない脅迫なんかに従う必要ない、と自分に言い聞かせるように呟いている。
 普段なら大人をやりこめる程に理路整然とものを言い、うろたえるとかだだをこねることを一切しないのだが、今は子供のようにじたばたしている。
 まだ、子供なんだ、とクラウドはほっとした。

「カイン、やっぱり、犯人に心当たりがあったのか」

 クラウドが言うと、カインは驚いて顔を上げた。

「『その子』と話したくないのか、って聞いたのに、別にって返してくるのはおかしいだろ? 知らないなら、その子って誰って聞いてくるのが普通だ」

 カインはクラウドの顔を睨むように見つめていたが、やがて、口を開いた。

「…知ってたんだよ!」

 クラウドの鼻先にピンク色の手紙を突きつけて、そっぽを向く。
 クラウドの鼻をミルクのような甘い香りが掠めた。

「この香り…」
「その香りがする子を一人だけ知ってるんだよ!」
BACK