嘘とミルクティ
嘘とミルクティ

「いつもご苦労様です」

 クラウドは郵便配達の人から紙袋を二つ受け取った。
 中には大量の手紙が入っている。

「毎日この量じゃ読むのも大変ですよね」
「多分…」

 配達人の言葉に苦笑する。
 全部読んでるのかどうかはクラウドには定かじゃない。
 紙袋ごと渡して、後は任せているからだ。
 全ての手紙を開封してもいいと言われてはいるが、人宛てのラブレターを読んだところでいい気分ではない。
 だから、クラウドは会社からなど重要そうな手紙だけ中を改めている。
 では、と配達人が帰るのを見届けてから、リビングへと紙袋を運ぶ。
 テーブルの上に手紙をぶちまけて、ソファーに沈んだ。
 この仕分けだけでも相当時間がかかるんだけどなぁ、と大きく呟いて、手紙の確認作業を始めた。
 セフィロスの名前が書かれた表書きを見て、右に置く。
 右に20回置いたところで、手紙を集めて輪ゴムで止める。
 そんな作業を繰り返して、手紙の山が三分の一になったころ、『ただいま』と声が玄関の方で聞こえた。
 クラウドは手紙の山に溜め息をついてから、キッチンへと向かった。
 急須にお湯を注いでいるところで、扉を開く音がする。

「今日は一人か?」

 そう尋ねると、クレフは捕まったと返ってきた。

「カインも一緒に遊んでくれば良かったのに」
「冗談じゃないよ。おままごとに混ざるなんてごめんだ」

 ダイニングテーブルの決まった席に座って、カインはお茶を啜った。
 カインはクラウドとセフィロスの間に生まれた双子の兄に当たる。
 銀色の髪を含め、容姿はセフィロスの幼い頃にそっくりだ。性格、頭脳なども引き継いでいるが、父よりは幾分常識人だとカイン自身は言って憚らない。
 確かにそうかもしれない、とクラウドも思ったことはあるが、口に出したことはない。

「クレフは混ざってるのにな」
「あいつはそれが楽しいみたいだからいいんじゃない?」

 カインは苦々しげに堅焼きのせんべいを噛み砕いた。
 クレフはカインの弟にあたる。兄がセフィロスに似ているのに対し、弟はクラウド似だ。
 天真爛漫という言葉がぴったりの明るく朗らかな性格である。
 少し天然で、とんでもないことを言っては周囲を驚かせることもあるが、それがまたクレフの良さでもある。
 性格はクラウド譲りだな、とセフィロスに言われたことがあるが、クラウド自身はこんなに天然であるとは思っていない。

「カインと一緒に遊びたい子もいるだろうに」
「誓って、それはない」
「カインが気づいてないたけだろ。そうだ、宿題の前に少し手伝ってくれないか」

 カインはお茶を飲み終えた湯のみをテーブルに置いた。

「何を手伝うの?」





「お母さんって毎日こんなことしてるの?」

 手にした手紙の束とテーブル上の手紙の山を見て、カインがうんざりしたように尋ねてきた。

「ほぼ毎日か。郵便やさんが持ってきたら、こうやって仕分け」

 手紙の束をぽんと放り投げてクラウドは伸びをした。
 カインのお陰で手紙の仕分けもあと少しで終わりそうだ。

「お父さんにしてもらえばいいのに。ほとんどお父さんのものだろ?」
「一回してもらったことはあるけど、ダメなんだ」
「ダメ?」
「会社からの封書は全部ゴミ箱行きにされたから。重要書類も何もかも」

 年に一度は提出するべき書類や、福利厚生の案内など家庭に関わる全ての書類がクラウドの知らないところで灰になったのだ。

「会社が嫌いだからなぁ、お父さん」
「だから、俺がするしかないんだ…。あれ?」
「何?」
「カイン宛て。ラブレター」

 クラウドはピンク色の封筒をカインに差し出した。
 レースの模様があしらわれていて、女の子が好みそうな柄だ。

「中も見ないでラブレターって」

 カインの抗議にクラウドは素直に謝った。

「そうだな。思い込みはダメだな」
「そうだよ。判断力が鈍るよ」

 父譲りの容姿で、父顔負けの論理を口にする。見た目の若さだけで言えば小学生のカインに思わず、笑みが漏れる。中身の渋さは外には出ないらしい。

「……お母さん、ラブレターってこんなに殺伐としてるものかな?」

 ラブレターと殺伐という2つの相容れない言葉に、クラウドは首を傾けた。
 カインは無言で手紙を差し出してきた。
 それを受け取って、中身を音読する。

「『きみのちちおやはあずかった。かえしてほしければ、16にちのゆうがた5時にがっこうのたいいくかんまできたるべし』か…」
「殺伐としてるでしょ?」
「そうか…、セフィロスを預かられたか…、頼んでないけどなぁ」
「…お母さん、忘れてるの?」
「何を?」

 カインが大きく息を吐き出して、ソファーから立ち上がった。
 ついてきて、という言葉に従い、クラウドはカインの後を追った。ウータイ風の部屋の前で止まったカインはよく見てよ、と言ってから、障子を大きく開け放った。
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