嘘とミルクティ
嘘とミルクティ

「聞きたいこと?」

 セフィロスが怪訝な顔をした途端、カインがクレフ、と弟を呼んだ。

「どうしたの?」
「ザックスさんとは後で遊んでもらおう。先に宿題してしまおう」
「はーい」

 クレフは、ザックスに待っててくれるようにお願いをすると、お兄ちゃんの後を追って、リビングから鞄を抱えて出て行った。

「……察しがいいんだな、ホントに」

 ザックスは軽く頭を振って、コーヒーに口を付ける。

「あまり俺と似てるって言うな。あいつは俺に似ていることを嬉しくは思っていない」
「セフィロス、そんなことは…」
「鈍い!」

 クラウドの言葉を切って、ザックスは言い捨てた。

「あのな、カインはクレフみたいに素直じゃないからさ、お父さんをけなすようなことを言ったりしてるだけ。誰よりも尊敬して、だんなのことを理解してるのはカインだと思うけど。あ、クラウドを除いて、だけどな」

 俺を引き合いに出すなよ、という言葉をクラウドは飲み込んで、セフィロスを見つめた。
 セフィロスは軽く笑って、ありがたいな、と呟いた。

「…もし、そうなら、それは本当に嬉しいことだ」
「まあ、俺としてはだんなみたいな人が増えるということについては、危惧しているんだけどな」
「俺みたいな善人を捕まえて、よく言う」
「善人の面を被った、悪魔みたいな人が何を言うかな」

 ザックスは自分の頬をむにーっと横に引っ張った。

「ああ、ザックス、お前は俺に喧嘩を売りにきたんだな。そうならそうと早く言えばいいものを」
「め、滅相もない。俺はクラウドに聞きたいことがあったんだって」

 セフィロスが立ち上がりそうなのを、まあまあ、となだめながら、ザックスはクラウドの方を向いた。

「俺に?」

 クラウドは別に改めて聞かれるようなことは何もないのに、と首を傾げた。

「そうそう。まあ、俺が気にしてるというよりは、エアリスが気にしてる……。違うな、だんなが一番気にしてる…? いや、うーん、どうなんだろうなぁ」
「ザックス、それじゃ、よくわからないよ。エアリスはそんなに抽象的に話をしたのか?」
「エアリスは基本的に何でも抽象的なんだって。俺の素行については事細かいんだけど」

 エアリスはあらゆる情報を握っているけれど、それを外に漏らさない。漏らすとしてもザックスとかセフィロス、クラウドぐらいなのだが、その場合も直接的には話さない。比喩を使ったりして、理解しにくい状態でしか伝えないのだ。

「で、俺に聞きたいことは何? その答えによっては何かが変わる?」
「いや、何も変わらないだろう。ああ、だんなが喜ぶ?」

 ザックスが首を傾けてセフィロスを見る。セフィロスは眉間に皺を寄せて、あのなー、と息を吐き出した。

「俺に聞くなよ。クラウドに聞きたいことも、クラウドの答えもまだ聞いてない」
「ああ、そうだな。ほら、今回、だんなの誘拐のでっち上げだっただろ? だんなが誘拐されてないのがわかってたから、別に大事にもならなかったじゃないか。それはそれでよかったなって思う。でもさ、もし、これが本当に誘拐事件だったらどうするつもりだったんだ? カインを行かせるわけには行かないだろ?」
「ああ、まあ、そうだな」

 クラウドはザックスの言葉を肯定してから、セフィロスの様子を伺った。
 セフィロスはクラウドを見るだけで、何も言わなかった。
 どんな言葉を期待しているのか、何を言えば満足なのか、はクラウドには読みきれなかったが、クラウドとしては、返答は決まっていた。聞かれることもないことだった。

「だろ? まあ、だんなが誘拐されることはないだろうけどさ」
「セフィロスだったら、誘拐されても一人で出てこれるよ。誘拐されて出て来れないっていうのなら、脅されてるんだろうさ。自惚れもあるけど、脅しのネタが俺だったり、子供たちだったら、セフィロスは従うだろうし」
「もし、仮に、だ。セフィロスが脅されてて、出て来れないってなったらどうするんだよ」
「決まってるじゃないか。わざわざ、俺にそれを聞きに来たのか?」
「そう。わざわざ。クラウドの口から聞くために、な」

 ザックスがにやり、と笑うのに、クラウドは首を振った。
 ザックスが聞きたいのではなくて、セフィロスに聞かせたいのだ、とクラウドは悟った。
 でなければ、ザックスもエアリスもわかりきっているようなことを、あえて聞きにくる必要はない。
 しかし、セフィロスもわかっているだろう答えのはずなのに、どうして言わせるのか、ということはクラウドにはわからなかった。

「意図は? なぜ、それを言わせる?」
「別に。ああ、エアリスの言葉を借りるなら、不釣合いのものを戻す」
「不釣合い?」
「そう。誰かががどこかで抱えている不安を取り除けば、釣り合いが取れるんだそうだ」
「つまり、不安を抱えている人がいるわけだな」

 クラウドはセフィロスに向かって笑顔を見せた。

「クラウド?」

 セフィロスはクラウドの笑顔の理由がわからないようで、普段より瞬きの回数が増えている。

「セフィロスは自分で気づいてなかったみたいだよ、ザックス」
「そうらしいな。だから、俺がわざわざ来ることになるんだって」

 ザックスが困ったように腕を組んでため息をつくのに、クラウドは苦笑する。
 セフィロスはザックスとクラウドの顔を交互に見ながら、どうしていいかわからないようだった。

「じゃ、答えようか。ザックスの質問に」

 クラウドはセフィロスの手をぎゅっと掴んだ。

「クラウド?」
「俺が迎えに行くよ」
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