Breath
◇◆◇
丘の上。
カラカラと車輪の転がる音。
視界の限り続く花畑。
あの日セフィロスに捧げた花たち。
十年が過ぎた今ではニブルヘイム中に華が咲き乱れ、北コレルまで続く山道すら埋め尽くしている。この花畑はクラウドのセフィロスを弔う気持ちの表れなのだろうか。
いつものように花畑の中、車椅子を押しながら俺は考える。
端から見たら兄弟にみえるのだろうか?
年を取らないクラウドとクラウドを越えていく自分。
遠い目をし、夢の中に生きているクラウドと現実を生きている自分。どちらが幸せなんだろう。
顔立ちはそっくりだが、全く異なる俺達。
クラウドを見ている俺の事をクラウドは見ていない。
十年前までは確かに受け取っていた優しい眼差し。
セフィロスの面影を重ねられる彼。存在すら消滅された己。
クラウドは生きていて幸せなのか。
セフィロスの元に帰る方がいいんじゃないか。
自分の中に芽生えた危険な考え。
思考は加速し、抑えられない衝動。
いつも通る散歩の道順から少し外れてみる。
心は落ち付きを無くしてゆく。
見た目はゆったりとした坂道だが、路を少しでも外れたなら一気に谷底へ転落してしまう。
誰もが知っている路。
今は路の両端が花たちで覆われていて慣れた者しか通らない。
今なら…。
鼓動が早くなる。
「ごめんな…」
そう、言ったのは誰?
からからと車輪の転がる音。
カラカラカラカラ…。
早くなってゆく車輪の音。
カラカラカラカラ。
花の中駆け抜けてゆく車椅子。
クラウドの手が何かを探すように、誰かに手を差し伸べるように、 空に向かって差し出される。
転がっていく車椅子とクラウド。花が舞う。それはまるで白日の夢。陽射しの中赤い花弁黄色い花弁舞い散って光の中吸い込まれてゆく。
夢のように、夢から覚めたように光が…眩しい。
儚く消えた。永遠に。
からから からから
からから からから
錆びついてる この時計 僕のようだ。
人の愛は なにげなく 終わりを迎え
幼い頃を思う やさしさに餓えてた 余りにも遠すぎた
あなたの声
僕の心 あの頃と 何も変わらず
君に送る躊躇だけが募るばかり
傷つくのが怖くて 何も出来なくなる
いつか夢がかなうと僕は願う
季節が 雪を降らして
そんな夜 君が僕に送った
愛の花束 造形の 毒の花束
幼い頃を思う
優しさに餓えてた
いつか夢が叶うと僕は願う
僕の夢は崩れて 砂になり
風に流され 二度と 人を愛せず でも今も
君を捜している
二度と人を愛せず
でも今も…