Breath (6)
Breath



◇◆◇

 かび臭くて埃っぽい部屋。
 神羅屋敷に住むようになって未だだれも開けていないこの部屋。
 今となっては使う人間もいない。
 この部屋に足を踏み入れるのは七年ぶりになる。自分の異常に気づき自分の存在理由や産まれた経緯を調べ、驚愕したあの時以来。
 この部屋の存在を知るのはクラウドと自分だけだ。

「何所にあるんだ…」

 本棚をしらみつぶしに調べているが一向に探している書類には逢えない。

「やはり神羅ビルの方に移動していたのか?」

 持っていた本をなおそうとしたとき、本来それがあった場所の奥に一冊の書類を発見した。
 茶けたファイルのなかには今まで自分が探していた文献があった。表紙にはjenova - 20と書いてある。
 半分以上は白紙のまま、前半にわずかに書き込みがあった。明らかに今まで見てきた資料とは違う、担当科学者の私的見解が書かれていた。

「これだな」

 ぺらぺらとページをめくると、ジェノバ細胞と他遺伝子との勾配結果と憶測のページを発見する。

『…×月×日 ヒト遺伝子とジェノバ細胞の勾配実験開始。
  ジェノバ細胞の寿命がほぼ永遠に対し、ヒト遺伝子との掛け
  合わせの場合長くて数百年、短くてヒトと同等。
  これは実験サンプルに投与するジェノバ細胞の純度による。
  純度八十パーセントの場合、約三十年。知能、体力などは人
  のおよそ三倍の能力が見込まれる。
  ただし、これはあくまで私の私的な意見であるので実際には
  分からないが、ジェノバ細胞が本来の永続的生命力を発揮で
  きるのは純度が低いサンプルであると思われる。ただし、
  トータルな能力面は純度の高いサンプルより大分劣る…』

「こういう仕掛けか…あいかわらずこの部屋で良い知らせというのを見た事がないな。俺は」

 セフィロスはその書類を暖炉にくべ、焼却した。
 自分自身の寿命は後数年。下手をすれば明日死ぬかもしれない。

「さすがにこういうふうに寿命の限界が身体に変化をもたらすとは気が付かなかったらしい」

 独り言のように呟き、包帯で巻いてある右手を見つめる。
 その下は一昨日溶け出した皮膚だ。バトルでの怪我だと偽っている左目の眼帯の奥に眼球はない。
 とっくに溶けてなくなってしまっている。
 こぶしを握り締め、古くなった壁を力いっぱい殴る。
 鍛えられた拳から血は流れない代わりに、目からは涙が止めど無くあふれる。
 やっとつかんだ幸せは瞬く間に過ぎ去り、一気に奈落の底への転落…。

「クラウド…」

 愛しいものの名を呼ぶ。
 壁の土の部分ががらがらと崩れはじめる。よろめきながら、地上に登る螺旋階段を登らなくてはならない。
 絶望的結末は自業自得なのだろうか。


◇◆◇


 もう会うはずのない人。
 あなたの香りがしたようで、人ごみの中振り返る。
 だけど、その残り香さえ、人ごみに吸い込まれてしまう。
 二人でよくきたっけ。ウオールマーケットには今日も沢山のひとがいる。人はたくさんいるのに。
 あなたは何処にもいない。
 そして、俺は独り置いてけぼりのまま。

「クラウド?」

 立ち尽くす。人の流れの中。
 流されてしまえば、そこにあなたが居るようで。

「いや…なんでもないんだ。」

 青ざめた表情。もう何日も何も口にしていない。
 心配そうに俺達のクローンが俺を見てるよ。
 それはまるで昔の俺達にそっくり。
 並んで俺を覗き込む、淡い碧の眼。
 絶望の波に呑まれてしまう。
 意識が宙を舞うように、消えてしまいそうになる。

「セフィロスにだんだん、そっくりになってきたね」

 少し、寂しげな目で彼を見つめる。
 いなくなってなお、俺の中を占めるあなたの割合は日に日に多くなってくるよ。
 生きているとき以上に。

「帰ろうか」

 あの時と同じように、同じ顔で、同じ言葉を言うんだ。
 遺伝子の力は恐ろしいよ。セフィロス。
 俺の肩を抱く、あなたと同じ遺伝子を持つあなた。

「クラウド?」

 そのまま、景色がぐるりと回転する。
 ああ、おれは何処に行くんだろう… 。
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