Breath (1)
Breath


    僕等の輝ける未来は神様が悪戯に描いた。
   息を吹き込まれた時から 僕等の全ては決まっていた。

 独りで在るような気がしていた。
 いつでも自分の何所かが欠けていて、隙間を埋めるように何かを探していた。
 今気がついた。足りなかったのは…。


   逆さまに攣り下げた狂った忌まわしい過去。
     嘲笑う神の声がした。


 人ごみの中、流されるままに同じ方向に向かっていく人の流れ。
 何処に行くのかさえわからずにただ踊るようにくるくると廻る自分。昔を思い出す言い難い焦燥感。
 前にも後ろにも 何処にも自分の居場所が無い感覚。
 このまま流されていくのもいいかもしれない…。

「なにしてる! 置いていくぞ」

 不意に腕をつかまれ現実に引き戻される。
 ああ、そうだ。今日はマーケットに来てたんだっけ。
 多すぎる人の群れとソルジャー養成所は酷似している。
 受け入れられない無表情な人たち。

「まるで派遣先に向かう車の中みたいだな」

 頭一つ高い所から声がする。
 はぐれないように、と握られた手は彼のポケットの中固く結ばれている。

「こんなごちゃごちゃした車なんかには乗らなかっただろ? 英雄なんだから」

 からかい半分に言ってみる。セフィロスは少し嫌そうに目を細める。
 俺の隣に居る元英雄は超が十個付くほどの有名人だった。ほんの一年ほど前までは。
 いや、今このサングラスが取れたらさぞかし大変な事になると思う。
 だから。
 俺達は今は少しの間アイシクルエリアで身を潜めている。
 俺としては二人っきりでいられていいんだけど…。

「愛してる」

 いきなり耳元で囁かれて心臓が出そうになる。

「な…」
「言って欲しそうな顔してた。今」

 何でわかるんだろう。いつも俺の欲しいもの欲しい言葉をタイミング良くくれる。
 優しく包み込むように愛してくれる。
 何処に居てもすぐにわかる。繋がっているような錯覚。
 俺の…。

「どうした? クラウド」

 ちょっと心配そうに覗き込んでくる。髪も声も目も唇も身体もすべてが愛しい。
 なくてはならない大切な存在。こういうのを何て言えばいいんだろう。
 恋人? そんな言葉じゃ足りない。
 掛け替えのない…。

「貴方と出会うまでずっと独りだった。何処に居ても誰といても。自分の中には大きな隙間が合って。何をしていてもそれは埋められなかった。でも貴方を初めて見て、触れて、知るようになって解った。貴方は俺の隙間だったんだ」

 自分以上に大切で、俺のすべてでもある。

「セフィロスは俺の生きる意味そのものだ…」

 柔らかい優しい眼差し。俺の考えすべてを理解してくれる人。ポケットの中の手をぐっと握りかえす。

「さあ 帰ろうか二人の家に…」


◇◆◇


「クラウドはもう戻ってこないかもしれない」

 肩まで伸びた銀髪がさらさらと俯いた横顔を隠す。
 見えなくてもその表情は分かる。
 絶望。
 そして、抗えない現実。
 一日中車椅子の上でクラウドは遠い目をしている。
 朝起きて夜眠るまで、瞬き以外殆ど動かない。
 夢の中をさまよっているような印象。
 表情は少し柔らかい、嬉しそうな表情。
 机を挟んで銀髪の向かい側には金髪のクラウドそっくりに成長した少年。
 ふたりは今年で十八になる。
 特殊マテリアの力でこの世に生まれた、二人のクローンとも呼べる存在。
 ガタン と隣の部屋で音がする。
 悲鳴に似た声にならない声と。
 時計を見る。真夜中過ぎだった。

「もうこんな時間か。自分の部屋に戻っていていいぞ」
「でも…」
「おまえに見られたくない、俺と…クラウドのことを」

 少し顔を背けて、小さな声でゴメンと言い残して部屋を立ち去る。
 階段を急いで登る音が消え扉が閉まる音を確認してセフィロスそっくりな男は隣の部屋に入り鍵を閉める。
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