幸福論 (2)
幸福論

「あ……っ!」

 セフィロスは俺のセーターをいきなり捲り上げて直接胸に触れてきた。
 そのまま指先で乳首を弄られては、我慢しようがない。
 胸が弱いことをセフィロスは知っている。

「嫌だ……、離して、お願い……」

 こうやって身体を揺らすたび、甘い声を漏らすたびにセフィロスの中で俺というものが積もっていって、俺自身に飽きが来るんじゃないか……。
 俺の心は嫌な予感で一気に染められてしまった。

「もう……、やめて……っ!」

 俺は力を込めて、セフィロスの拘束を振りほどいた。

「クラウド……!
「もう、だめ……」
「だめ……って?」
「これ以上触られたくない……」

 セフィロスの瞳が大きく開く。

「……俺が嫌いになったのか……?」

 俺は首をふった。
 違う。
 好きだから、どうしようもなく好きだから、セフィロスが俺に触れなくなる日が怖い……。

「……だったら、どうして……」
「……ごめん……っ!」

 俺はソファーから立ち上がって、セフィロスから離れようとした。

「クラウド!」

 俺はセフィロスに腕を掴まれる。
 セフィロスの瞳は俺を射ぬこうとする。全てを見透かそうとする。
 目を反らして、セフィロスの手から逃れようとした。

「理由を聞かせろ!」
「……わけ……?」

 俺を求めなくなる日が怖い。
 そんな理由が言えるだろうか。
 俺がどんなに好きでいても、求めていても、この人が俺を抱こうとしない日がくるかもしれない。
 そんな日が来るのを俺は酷く恐れている。

「……どうして、俺を抱こうとするの……?」
「抱きたいからだ」

 即答。
 ただ、その相手は俺でなくてはだめなのだろうか。
 その欲求を満たせたら誰でもいいのではないだろうか。

「俺でなくてはだめなのか……?」
「当たり前だろう?」

 当たり……前……?

「俺はクラウドしか抱きたくない」

 そう言ってセフィロスは俺の手を引っ張った。
 バランスを崩した俺はセフィロスにしっかり抱き止められる。

「……離せって……」
「クラウドがいいと言っているんだぞ!」
「……いいから……、離してくれ……」
「こんなわけのわからない状況でクラウドを離せるか!」

 抱きしめるセフィロスの腕から逃げたくてしょうがない。
 この状況は俺をひどく落ち着かなくさせる。
 この時間分だけセフィロスの中に俺と抱き合った時間が溜まって、いつかあふれてしまうのではないだろうか。
 俺と抱き合ってる時間という箱があって、それがあふれてしまう気がする。
 それがあふれたとき、それはつまり、俺を必要としなくなるとき。
 俺に飽きたということだ。

「……いやだ!」

 俺は叫んでいた。

「落ち着け! どうした!」
「離して、俺から離れて!」
「離せないって言ってるだろう!」
「こんなに俺の側にいたら、いつか飽きちゃうだろ!」

 驚いたのか、セフィロスは俺を抱きしめる腕をゆるめた。

「いや、いつかじゃない、もしかしたら、もう飽きてるんだろ!」
「俺がお前に? 飽きてるだと?」
「そうだよ!」

 俺はセフィロスの腕の中から抜け出ると、全速力で寝室までかけ上がった。慌てて扉を閉めて、ベッドに倒れこんだ。
 何があっても、たとえ、セフィロスと離れることになったとしても、俺は泣かないって決めてた。
 それなのに、涙が止まらなくなった。
 セフィロスが俺に飽きて、俺のことを見なくなって、俺のことを好きじゃなくなる日がくる……。
 そう、俺を好きでいてくれなくなる……。
 そうだ、セフィロスが俺を好きじゃなくなる日が来るのが怖いんだ。
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