All I need (1)
All I need

 クラウドは家に向かって走らせていたバイクを側道に寄せ、一度止めた。

「暑い…」

 バイク用のグローブを外し、熱のこもっていた手を外気にさらして、軽く振る。
 日は沈みかけているものの、昼間に蓄えられた熱はまだ辺りに充満していて、何もしてなくても、じっとり汗が滲んでくるようだ。
 腕時計は夕方の6時を回っていた。
 今から買い物をして帰り、夕食を作っていると、7時を過ぎてしまうだろう。
 あまりお腹が空いたとは言わないし、食べるより飲む方が好みの同居人が文句を言うとは思えないが、帰りが遅いと心配されてしまうのだ。

「…もしもし。うん、ごめん。今から買い物して帰るけど、晩ご飯……。え? 作ってくれてる?」

 どういう風の吹き回しだろうか。
 今から強烈な嵐が来なければいいけれど。

「ん…、わかった。ありがとう。なるべく早く帰る」

 同居人が作れるものと言えば、炒飯だけだ。他の料理は一切出来ない。しかも、なぜか炒飯だけ、プロ並みに美味いのだ。
 他にもっと簡単な料理があるのに、どうして炒飯だけ極めてしまったのか…。
 いつ、どこで、誰に教わったのか、など聞き出そうとしてみたことは何度かあるけれど、いつもはぐらかされて聞けずじまいだ。

「あれ? …炒飯の材料…、調達したのかな?」

 冷蔵庫の中を思い出してみたが、デザートやお酒はぱっと思い浮かぶのに、肝心の食材が思い出せない。
 きっと、そんなに変なものは入ってないだろう…。
 うん、大丈夫だ、と自分に言い聞かせるように呟いて、携帯電話をポケットにしまう。暑いのを我慢しつつグローブを嵌め、クラウドはバイクのエンジンを吹かした。

「…デザートだけ買おう」

 そう決めて、いつもよりスピードを上げて、家路についた。



 家に帰ったクラウドは真っ先にキッチンへと向かった。

「ああ、おかえり」

 同居人の声に、うん、と答えて、テーブルを確認する。
 テーブルには丸く盛られた炒飯が置かれていた。それだけしか置かれていないため、どうにも寂しい。

「スープ、作ろうか?」
「今日は何もしてもらわないつもりだったんだがな」

 同居人は小さく息を漏らし、肩をすくめた。
 クラウドよりも頭一つ分以上大きい筈の男が小さく見える。
 いつもは無造作に下ろされたままの長い長い銀髪は後ろで束ねられていて、こんな姿を見るのは一年に数えるほどだ。

「何で? 何もしない方がいいのか?」
「何でって、クラウド自身が忘れてるのか?」
「忘れてないよ。誕生日だろ?」

 クラウドは鞄を無造作に椅子の上に置くと、冷蔵庫を開けた。
 スープの材料になるものを探してみるが、大した物はない。デザートだけじゃなくて、食材も買って帰ってくるべきだったか、と自分の考えの甘さに呆れつつ、デザートだけ冷蔵庫にしまった。

「そうだ、クラウドの誕生日だ」
「そうだな。それで、どうして俺が何もしなくていいことになるんだ?」

 同居人に視線を移して尋ねると、わざとらしく大きく息を吐き出した。

「俺がしてやれることがこれぐらいだから、だ。欲しいものも言わないし、祝ってくれとも言わないじゃないか」
「なあ、セフィロス」

 クラウドは同居人の名前を呼んでから、セフィロスの胸ぐらを掴んだ。
 眉間に皺を寄せて、怪訝な顔をしているセフィロスに、笑顔を見せる。

「こんなに長く一緒にいるのに、まだ、そういうこと言う?」
「クラウド!」
「わかってないな。困ったさんだ」

 セフィロスの胸ぐらから手を離して、クラウドは椅子に座ると、セフィロスにも座るように勧めた。
 セフィロスの方は困ったような顔をしたままで、立ち尽くしたままだ。
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