もし、君がいないと(2)
もし、君がいないと

 俺はクラウドの横に座って、頭を撫でた。

「クラウドの意思でいなくなったと仮定すればいいのか? 忽然といなくなったと仮定すればいいのか…?」

 これだけを言うのに、喉は枯れてしまっている。次の言葉が出そうにないほど、喉の奥が張り付いてしまっているようだ。唾さえにじみ出てこない。
 頭を撫でている俺の手に、クラウドの指先が絡んでくる。クラウドは指先を弄びながら、そうだなぁ、と言葉を探している。

「…俺の意思でいなくなるなんてことは、まあ、ありえないな。だから、前者は考えないでいいよ」
「じゃあ、なぜ、いなくなるなんてことを…?」
「だってさ、俺の意図に反する出来事が起きないとも限らないだろ?」
「そういうことなら…」

 俺は体を捻って、クラウドの手首をベッドに押さえつけるようにして、覆いかぶさった。
 クラウドは驚いた様子も見せずに、軽く笑うだけだ。

「こうやって俺の目の届くところにずっと置いておけばいい。何なら繋がってればいい。クラウドがいなくなるようなことになる状況を作らなければ済む話だ」
「セフィロス。俺一人に、熱くなりすぎ」
「誰にも譲れないものだ。熱くなって当然だろう?」
「…俺は……」

 クラウドは笑顔を消して、視線をそらすように首を向こう側に倒した。かける言葉が見つからないほどに、クラウドの様子は一変してしまっている。
 何を言っても、何をしても、クラウドの気持ちを掴みとることなどは出来ない。
 こんなに長い時間、傍にいて、全てわかったつもりでいたのに、実は一つもわかっていないことを思い知らされる。
 この自分の吐く一言がクラウドを追いつめてしまうのならば。
 何も話さない方がいいのだろう。
 俺はクラウドを拘束している手をそっと放した。

「…セフィロス…」

 クラウドの小さな声が届く。

「もう、眠るといい。気分が悪いのだろうから」
「俺に…、何がある…?」
「どういう意味だ?」
「こんな俺に何がある? セフィロスをそこまで熱くさせる何を持ってる?」
「お前にはきっとわからないだろう。でも、それは俺がわかってる。俺がわかってればいいことだ」

 クラウドはまだ黙ったままで、身動き一つしない。

「もちろん、他の人が簡単に想像つくものもあるだろう。可愛いとか、そういうことだ。だが、それだけじゃない。他の誰にもわからない、そう、本当に俺にしかわからないものっていうのがある」

 手を伸ばして、クラウドの頭を軽く撫でた。

「その俺にしかわからないものを持ってるのはこの世でクラウドだけで、他の誰も持ってない。だからこそ、俺はクラウドに熱くなるんだ」
「…それ、一体何だよ…」
「言わない」
「…ケチ…。知らなかったら、俺、それをなくしちゃうかもしれないじゃないか…。そうしたら、俺がいなくなるのと一緒だろ…?」

 クラウドは上掛けをひっかぶって、丸くなってしまった。
 あやすように頭をぽんぽんと叩いたが、さらに丸くなって、まるで俺との対話を拒んでいるようだった。
 しかし、残念なことに、俺はそのクラウドの作り出す壁のようなものを壊すような言葉を持ち合わせていなかった。先ほども些細な一言でクラウドの気分を一気に沈ませてしまったぐらいだ、クラウドのその時一番望む言葉などかけてやることはできないのだろう。この先もずっと…。
 それでも、何が起きようとクラウドの傍にいたいと思っている。いなくなることなど考えたこともない。
 ふと気が付いた。

「…そう言えば、やたら、いなくなることにこだわってるが、何かあったのか?」
「…何もない…」
「何もないけど、思うことはあるのか?」

 クラウドはもぞもぞと動いて、俺の方を向くと、目だけを出して、別に、と言った。

「クラウド、俺はお前がいなくなるなんてこれっぽっちも思ってないぞ…」
「ん…、セフィロスはそう言ってくれるって思ったよ…」
「…だったら、どうして聞いてきた?」
「俺が逆のことを考えたから」
「逆?」

 クラウドは体を起こすと、ベッドの上に正座をして俺と向き合った。そして、抱きついてきた。

「…こうやって触れるところにいるのが当たり前だと思ってるよ。この先もずっと続くってこともわかってる。だけど、もし、いなくなってしまったら、俺はどうするだろうって」
「俺がいなくなるなんてことはない」
「ん、そう言うよな。でも、何の前触れもなくで忽然と消えてしまったら、俺はきっと…」

 言葉を切って、強くしがみついてくるクラウドの身体を抱きしめてやる。クラウドは一人うなずくように首を小刻みに動かしては、小さく息を漏らした。
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