必需品 (5)
必需品




 誰かに触れられているような気がして、目が覚めた。
 横を見ると、クラウドと目が合う。

「あ、ごめん」
「いや、起きてたのか?」
「ついさっき。髪の毛触ってて起こしちゃったね」

 ああ、触れられている気がしたのは、クラウドだったのか。

「いいけどな。もう一回寝ればすむ」
「ごめんね。セフィロスの髪の毛がすごいさらさらで気持ちよくってつい触っちゃって」
「クラウドが洗ってくれたからじゃないのか?」

 クラウドは一瞬目を輝かせたが、すぐに頭を振った。

「いやいやいやいや。そ、そんなことはないでしょう」

 …『いや』を何回言うつもりだ。それに俺が自分で洗っていたら、乱暴に洗っているはずだから、クラウドが言うさらさらな状態にはなっていないと思う。

「きっと、クラウドのおかげだな」
「それはないと思うんだけど、もし、そうだったら、うれしいな。俺のしてあげられることが一つ増えたし」
「…って、お前にずっと洗ってもらうわけに行かないだろう?」
「…俺が洗ったら、嫌?」

 そういう意味で言ったわけではないのだが…。悲しそうな顔で俺を見てくるクラウドに、俺は返す言葉がなかった。

「……嫌じゃないが…」

 これだけようやく言葉にできた。

「よかった、よかった。じゃあ、また洗ってあげる。これでシャンプーハットも買わずにすみそうだしね」

 ……そうか、事の発端は俺のシャンプーハットだったか…。
 確かにシャンプーハットを買わずに済んだのはよかったのかもしれないのだが、その反面、クラウドには余計な手間をかけさせることになる。本人はうれしそうなんだが。

「そういえば、俺を待ってた理由が二つあったと言ってたが…」
「…ああ、そのことね…」

 クラウドは俺の髪の毛をまだ弄っている。

「実はセフィロス、機嫌を損ねてるんじゃないかなぁ、と思って」
「俺が? どうして?」
「うーん、何か俺、一人でうれしくなって髪の毛を洗っちゃってたけど、本当によかったのかな、と思って」
「嫌だったら、初めから洗ってもらったりしないし、礼なども言わない」
「それだったらいいんだけどね。俺、セフィロスにしてあげられることが増えて浮かれてたから、セフィロスの気持ちまでちゃんと考えられてなかったかな、って反省してて、確認しようと思ってたのが、もう一つの方」
「全く、お前は気を遣いすぎる」

 クラウドを思い切り抱きしめてやる。

「そうかなぁ…」
「そう。すぐ俺のことを気にする」
「それは当然だろ」

 クラウドは俺の背中に腕を回して、指先を上下に滑らせている。しばらく、クラウドは黙ったまま、この動作を続けていた。
 不意に指先の動きが止まる。

「…俺、セフィロスのこと、ほんとに好きだから…」

 俺の胸に頭を預けるようにして、クラウドは俺にさらに寄り添ってくる。

「…好きだから…。でも、気を遣ってるんじゃないんだ、気になるんだよ」
「…クラウド…、すまんな、ありがとう」

 クラウドは俺に対してできることが少ないと言っているが、実は、クラウド自身が意識せずにやっていることでも救われているのだ。たとえば、こういうやさしさなんかもそうだ。このやさしさに俺はいつも救われている気がする。

「お、お礼言われると困る…。お礼を言われるようなことじゃないし…」
「俺が言いたいんだから、言わせろ」

 クラウドは恐縮したように肩をすくめた。

「じゃ、じゃあ、その気持ちありがたく…」
「よしよし。それでいい」

 クラウドは俺から離れると、俺の肩に手をかけた。そのまま体重を乗せてきて、クラウドは俺の上に乗る形になった。

「クラウド…?」

 潤んだ瞳と、半分開かれた口元。そこからこぼれる言葉は俺の名前と、キスをねだる言葉。
 クラウドの頬に手を伸ばして、引き寄せる。初めは唇が触れる程度の軽いキス。

「…あ…」

 名残惜しそうなクラウドの声に笑みを浮かべる。クラウドがどんな状態でいるのかは、わかっている。
 クラウドは俺の唇に指先を当てて、拗ねたような表情を見せている。

「笑ってないで…、ね?」

 言葉で返事をせずに、態度で返事をする。
 クラウドをさらに引き寄せて、唇を重ねた。クラウドは待っていたように自分から舌を絡めてきた。どれぐらい重ねていたかわからないぐらい長いキス。その後、クラウドはすごく困ったような顔をして俺を見た。

「何だ?」
「…俺、もう……」

 クラウドが何を言いたいのかわかった俺は、思わず噴出しそうになった。キスの間、クラウドは本当に落ち着きがなかったから、真剣にヤバイのだろう。

「わかってる。じらすとおかしくなっちゃうだろ?」

 クラウドは頭を大きく縦に振っている。
 クラウドの胸の突起に口付けると、それだけでクラウドは大きく身体をくねらせている。
 今回は俺自身が楽しむ事は考えずに、クラウドを気持ちよくすることだけ、考えていた。それはクラウドに対する今までの感謝の意味も含まれていた。



 次の日もクラウドは俺の髪の毛を楽しそうに洗っていた。
 クラウドが飽きるまでは当分洗ってもらうことにしようと思い、まだ、シャンプーハットの発注はしていない。



END
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