必需品 (3)
必需品

 人の髪の毛洗っていて幸せって何だ?
 クラウドの思考が理解できなかった。

「普通さ、人に髪の毛洗ってもらうことってないだろうし、洗ってもらおうって思うことってないだろうから、こういう機会ってないと思うんだ。たまたまセフィロスがシャンプーハットが必要な人だったけど、俺みたいな人だったら、絶対人に洗ってもらうってことがないだろ? だから、こうやって好きな人の髪の毛洗ってあげられるって幸せだなぁ、と思ったんだけどね」
「…そんなものか…?」
「俺にとってはね。好きな人のために何かしてあげられるっていうのは嬉しいよ。特に俺、セフィロスにしてあげられることってほんとに少ないからさ…」
「クラ…」

 俺がクラウドの名前を呼び終わるより先に、

「リンス、つけ終わったよ。リンスは後で流すから、先に体とか洗って」

 クラウドはそう言うと、俺の髪の毛を束ねてから、湯船に浸かった。



 結局、リンスを流してもらい、頭を洗うという行為を全てやってもらってしまった。
 風呂から出た後、俺が大丈夫だというのにも関わらず、クラウドは「髪の毛乾かしてあげる」と言って、俺の髪の毛を乾かし始めた。
 乾かしている間中、「さらさらだ~」とうれしそうに、髪の毛をとかしていた。
 クラウドの思考は読めないことがある。大概、クラウドの考えてることだったらわかるのだが、本当に俺が思いもよらないような理由で行動を起こす事がある。だが、それは俺に対することだったりするので、俺がわからないのも当たり前なのかもしれない。

「よし、おしまい。じゃ、俺、先に寝るね」

 クラウドはドライヤーと櫛を片付けて、さっさと洗面所を後にした。

「ああ」

 クラウドに軽く挨拶すると、俺はリビングに行って、ビールの缶を開けた。
 風呂あがりで乾いた喉をビールが潤してくれる。この瞬間は普段あまり飲まないビールも美味く感じるものだ。
 一気にビールを飲み干してしまい、物足りなくなった俺は、冷蔵庫からビールの缶を三本ほど持ってきた。
 三本飲み終えるころには、かなり気分がよかった。ちょっと浮遊感と頭が重い感じ。思考がちょっと鈍くなっている。
 ぼんやり、クラウドのことを考えてみる。
 クラウドは俺の髪の毛を洗う事を厭ったりはしなかったが、好きな人のためでもめんどくさいものはめんどくさいと思うのだが。
 俺だったらめんどくさい、と言ってしまいそうだが、いや、クラウドのためだったらしてやれるかもしれない…。同じ気持ちなんだろうか…。

「セフィロス、遅い」

 クラウドが俺の横に座りながら、ビールの缶を開けている。

「お前、飲めないだろ?」
「残りはセフィロスが飲んでくれるだろうから。ちょっとぐらい飲みたい日もあるって。それに、セフィロス、全然来ないんだもん」

 先に寝ると言ったのはクラウドの方で、待ってるとは思っていなかった。

「俺を待つ理由は?」

 想像はついていたが、あえて聞いてみた。

「二つあるんだけど、一つ目を優先しちゃおう」

 クラウドは持っていたビールの缶をテーブルの上に置くと、俺に抱きついてきた。

「一つ目は俺の想像通りだったらしいな」
「ベッドで待ってるなんて、それぐらいしかないだろう?」
「まあ、お説教じゃなくてよかった」
「説教する理由ないもん」

 クラウドはさらに体重をかけてきて、俺の上に乗っかってきた。ソファーに体が沈む。クラウドはそのまま俺の唇をふさいできた。するりと舌が入ってきて、俺の舌を絡め取る。しばらく、お互いの舌を味わっていたが、クラウドが不意に体を起こした。

「どうした…?」
「…ベッドの方がいいなぁ…」
「ふーん」

 俺は体を起こすと、クラウドを抱えあげた。お姫様抱っこではなく、肩に抱えあげたので、クラウドがびっくりしている。

「ちょ、ちょっと」
「ベッドの方がいいんだろう?」
「な、なんか、誘拐されてるみたい」
「誘拐ねぇ」

 俺は苦笑した。このシチュエーション、俺としては、思いを寄せるお姫様の強奪という感じなんだが。まあ、変わらないか。
 寝室のベッドにクラウドを下ろすと、クラウドは自分から上半身裸になった。白い肌をあらわにして、潤んだ瞳で俺を見つめている。俺がどういう気分になるのかわかっているのか、わかっていないのか。
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