HIGH PRESSURE<謎の男> [side:S] (4)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:S]

※1ギル=おおよそ100円換算

 実際の経営とかは店長に丸投げだろうし、コルネオが店に出ることはないのかも知れないが、貸したら最後、な気がしてしょうがない。

「でも、ビル一棟借りたいっていう話でしたよね? 他のフロアはどうなさるんですか?」
「ファッションビルな感じで、カフェやらお洋服やら、可愛らしい感じの…」

 ……思考がついていかない。コルネオに何が起きた?

「この辺りはオフィス街だということで、若者の姿は少ない。だから、呼び込もうと思うわけだ」

 街を発展させようとそういうことなのだろうか? いや、そういう殊勝な心がけではない、と思う。

「この辺りは店舗を出すにしても、基準が厳しいですよ? いいですか?」
「わかってる。セフィロスさんには迷惑かけん」

 やけに真剣な表情で見てくるから、俺はわかりました、と言った。貸主はあくまでも俺だから最悪どうとでもできるだろう。
 自席からノートパソコンを運んで来て、近くの空きビルの情報をコルネオに見せる。このビルのすぐ隣はもう埋まっていて、貸し出せない。その隣はというと、ビル一棟は空いていなくて、一階のフロアだけがテナント募集中だ。カフェだったら、使えるかもしれない。

「…ビル一棟は難しいということだな。よし、まずはカフェからだ!」
「では、この一階のフロアになさいますか? 家賃は少しお高めになりますが」
「ビル一棟のつもりが1フロアだけになったんだ。予定よりはお安い」

 コルネオはこれ見よがしに右手の指輪をギラつかせて、口ひげを撫でている。金に物を言わせてるだけの、小物だな、と思わせる。

「…そのフロアをご覧になりますか?」
「とりあえず、今日は間取りがわかればいい。契約を交わすのはフロアを見てからでよいのか?」
「構いません。お気に召さなかったら困ります、お互い」
「なるほど。では、近々契約に来る」
「お待ちしております」

 心を無にして、営業スマイルを振りまく。
 コルネオはうんうん、と頷くと、ソファーから立ち上がって、扉の方へと向かった。見送るべく、後ろをついて行くと、急に振り返ってきた。お腹がぶるんと揺れている。それをまずどうにかしろ。

「知ってるか?」
「何をでしょう?」
「この下のコンビニに、可愛い店員がいるんだわ」

 俺は頭が真っ白になった。



 可愛い店員…。
 下のコンビニと言えば、一件しかないよな。あの少年がいるコンビニ以外のコンビニなど、この周辺にはない。
 しかもコルネオは「この下の」とはっきり言っていた。つまり、『可愛い店員』=『あの少年』の式は確定だ。

「まずい…」
「何がまずいんでしょう? フロアをお貸しになることですか?」

 応接室のソファーに沈んで呟いた言葉を女性社員に拾われた。

「…いや…、フロアについてはまだ契約が決まったわけではない。あの場所で変な商売始めたら、即刻立ち退いてもらうつもりだから、問題はない。まずいのはそういうことではなく…」

と、ここで言葉を切った。
 どういうことだと説明する気なのだ、俺は。
 俺が気になっているあの少年がコルネオに食われそうだとか。いや、食おうとしているかどうかは不明だが、ありえないことはない気もする。もし、そうなったとしたら……。

「ああ、怖すぎる!」
「怖いのはこっちです。一人考えごとしながら、叫ばないでください」
「悪い…」

 女性社員に謝って、ソファーから立ち上がり、自席に戻った。
 煙草でも吸って、気を落ち着かせようと思ったからだ。机の上に無造作に置いていた煙草の箱を掴んで、はぁ、とため息をつく。こういうときに限って、箱の中身が空だとは。
 コンビニに行くしか…。
 コンビニ?
 俺は自分の腕時計を確認した。夕方の5時を過ぎたところだ。この時間だったら、まだ勤務中かも知れない。
 自席に書けてあったスーツの上着を羽織り、足早に事務所を出た。
 エレベーターに乗り込み1階のボタンを押す。気が急いているのか、1階までの時間がいつもより長く感じる。
 エレベータが到着した途端、扉の外に出ようとしたら、ちょうど乗り込もうとしていた女性にぶつかりそうになった。

「すみません」

 長い長い黒髪を揺らして、女性は頭を下げてきた。スポーツバックを肩に掛けているので、2階にあるスポーツジムにでも行くのだろう。

「こちらこそ、急いでいてすみません」

 軽く頭を下げて、コンビニへと足を進める。
 できるだけ急いできた感じを見せないように、ゆったりと店の中に入ったところで、俺はまた頭が真っ白になった。


END
第2話の [side:S] はこれで終わりです。
謎社長の悩みの種が増えていきますが、クラウドとの関係はこの先どうなっていくのか?
第3話は来月ぐらいに開始予定です!
BACK