HIGH PRESSURE<謎の男> [side:S] (3)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:S]

※1ギル=おおよそ100円換算

「それはそれは…。期待せずに待っているとしよう」

 お礼! ああ、期待に胸が膨らむ!
 笑いが抑えられない。どうしたものか。

「では、失礼します…、っと、そうだ、気になってたんですけど!」
「ん?」

 少年を見上げてみると、言葉を探すように天井に視線を泳がしていたが、意を決したのか、すぐに俺に視線を戻した。

「もしも、ですよ。俺がくじの景品持ってこなくて、預かったお金、ちょろまかしてたら、どうしてました?」

 俺は予想もしていなかった問いに驚いたのと、意外な心配をしていたことを知って、声を上げて笑ってしまった。
 少年は気分を害したのか、ちょっとむっとした表情をしていた。

「悪い悪い。商売柄、これでも、人を見る目はあると思ってるんだ。ちょろまかすような店員じゃないことぐらいはわかる」
「…信頼されたってことでしょうか?」
「そんなところだな。それに、すぐにばれる話だろう? 下のコンビニでバイトしてる限りは」

 少年に頼んだことも俺はわかっているわけだし、少年と話していたコンビニの先輩もいる。コンビニの先輩がグルだったら話は変わるけれど、それはありえない。先輩の方もそういうことができない、ということはもうわかっている。

「ほら、急いでるんだろう? 俺には君のお昼休み時間を延ばす権利はないんだ」
「わー、そうでした。失礼しまーす!」

 少年は金髪をぴょんぴょんと揺らしながら、事務所を出て行った。
 後ろ姿を眺めながら、俺は口元に手をやる。
 可愛い…。可愛すぎる…。
 これは毎日コンビニに連絡して、買った物を持ってきてもらわなくては!


◇◆◇

 あの少年のお陰でその後の仕事がはかどる、はかどる。
 思い出してはにやけてしまうのが問題ではあるが、女性社員は黙々と仕事をするタイプだし、男性社員は今日は外出のため、俺がにやけていようが気にするやつはいない。

「社長、すみません」
「な、何だ?」

 少年のことを考えていたので、上の空になっていたようだ。
 いきなり呼ばれて、うろたえてしまった。

「そろそろ、コルネオさんがお見えになるかと…」
「そんな時間か。わかった、新しいビルを借りたいという話だったな。場所の希望とか聞いてるか?」
「今のビルに近い方が良いという話はなさっておりましたけど」
「今のビル…」

 今、コルネオに貸しているビルはこのビルの二本ほど北側の道にある。
 このビルの二本ほど北側からさらに北にかけては風俗街と言ってもおかしくはないぐらい、いかがわしい界隈だ。
 あの地域で空きビルか…。

「使用目的も聞いてないか?」
「バーとか仰ってましたよ」
「…そうか…」

 俺はパソコン上の地図を見ながら、都合の良さそうなビルを探す。ないこともないが、何フロア必要かにもよるし、話をせざるを得ないか。
 ドアをノックする音が聞こえて、女子社員は入り口の方へと向かった。

「まあ、コルネオさん、今日はお一人ですか?」

 珍しい。
 いつもは何人か女性を引き連れてくるのに。

「今日はちょっとな。こういう日もある」
「お入り下さい。社長を呼んで参りますので」

という女性社員の声に、俺は嫌々席を立った。
 席を立ち、応接セットまで向かうと、コルネオが一人でソファーの真ん中に座っていた。何か、もうそれだけで暑苦しい。いかにも、金持ってる、という風体で、うさんくさいことこの上ない。風俗街を牛耳っているということらしい。どういう手を使って、のし上がったのかは不明だが、その界隈では逆らうととんでもないことになるんだそうだ。

「これはこれは。今のビルのお近くをご希望だとか?」

 話を短くするべく、前置きはなしにする。

「そう思っておったんだけどなぁ。考えが変わった」
「変わった?」

 嫌な予感しかしないのはどうしてだろう。コルネオの微妙な笑みのせいだろうか。

「そう、気が変わってな、このビルの近くに用意して欲しい」
「このビルの近く、にですか?」
「こう、おしゃれなお店でもやってみようか、と」

 それ、無理だろう!
 心の叫びが声にならなくてよかった。お客様相手にそんなこと口にしてはいけない。

「若者が集まるお店を作りたいと思ってな」

 いかがわしい店じゃないのか、それ…。
 いかん、何を聞いても、普通に受け止められない。

「このビルの近くですと、普通にオフィス街ですので、今、コルネオさんがなさっている商売のようなお店は出せませんよ?」
「だから、おしゃれな、若者が集うお店を開こうと思ってな」
「例えば?」
「カフェ、とか」

 カフェ!? 言うに事欠いて、カフェ!

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