HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C] (4)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C]

※1ギル=おおよそ100円換算

「そうだ、くじの景品をお渡ししないと」

 俺は傍らにあった袋3つを向かい側に座った社長に差し出した。袋を受け取る手に思わず目が行く。男の人の手にしては、ゴツゴツしてなくて、長いすらりとした指だ。この人、作り物なんじゃないか、って思うぐらい全てのパーツが綺麗だな。

「これはこれはご丁寧に」

 あなたが運んでくれって言ったじゃないか、という思いを心にしまって、いえ、とだけ返す。
 社長はごそごそと、袋の中を探っている。

「おや、くじ運悪いって言ってなかったか?」
「え! あ、あの、普段は本当に悪いんですよ! 何だか今回だけ、妙に良かったみたいで…」

 俺はさらに小さくなって、俯く。
 一等が二種類とも当たっちゃったとか、明日、変な天気にならないといいけど。

「素晴らしいくじ運だな。助かった、ありがとう」
「え?」

 社長はふわりと優しく笑う。
 ん? 今、ドキッとした? どうしたんだ、俺。

「え、いや、あの、俺、全部お箸だったら、どうしようかと思ってて…。使い道ないですよねぇ…」
「もし、全部お箸だったとしたら、それをここまで持ってきたか?」
「持ってはきたと思いますよ。逃げるわけには行きませんので。ただ、お詫びのしようもないので、ひれ伏すしかないですけど…」

 社長はくくく、と声をかみ殺したように笑う。

「あら、社長がそんな風に笑うだなんて、珍しいこともあるもんですねー」

 お茶を運んできてくれた事務員の女性が、本当に驚いたように声を上げている。俺の前にお茶を置きながら、ごゆっくり、と声を掛けてくれた。
 ごゆっくり?
 いや、そう言われましても…。
 ごゆっくりしてる暇はないんだ、そうだ!
 制服のポケットをまさぐって、携帯を探す。
 あれ、あれれ? 携帯ないじゃないか。そうだ、景品渡したらすぐに店に戻るつもりだったから、鞄とかも持ってきていない。
 この部屋に時計はないかな、ときょろきょろと辺りを見渡していると、13時半だな、と社長が言った。

「わっ、そんな時間ですか! お店に戻らないと!」
「お昼休みじゃないのか?」
「あ、はい、そうなんですけど…。お昼ご飯とか食べないと…」

 お昼にありつけないと夕方まで持たない。

「そうか、それもそうだな。次回はお昼を用意しておこう」

 え? どういうこと? 次回って何?

「お届けありがとう。これはお礼だ」

 社長は俺が持ってきた3つの袋のうち、2つを渡してきた。

「あの? これは社長のものですけど…?」
「俺が必要としていたものはちゃんとおいてある。ブランケット、欲しかったんだろう?」
「はい!」

 うっかり、言っちゃった…。
 社長の低い笑い声が続く。
 でもでも、モーグリブランケット、めっちゃ可愛かったんだよー!

「あの…、ブランケット以外のものも入ってますよ?」

 社長が必要としていたのは、どうやら一等のフィギュア二種だけだったようで、それ以外のものが全部俺の手に帰ってきたことになる。つまり、56ギル分だ。

「気にしなくていい、何ならここまでの配送料とでも思ってくれ」

 配送料っておっしゃいますけど、エレベーターで7階まで来たわけだから、所要時間5分もないのですが。
 それで56ギルとかどういう了見?

「いや、あの…」
「そうやって遠慮してると、休み時間がどんどん減っていくぞ」

 ああ、俺のお昼ご飯が!

「えっと、あの、ありがとうございます! このお礼は必ず!」
「それはそれは…。期待せずに待っているとしよう」

 本当にこの人、いつもはこんなに笑わないのだろうか。何だか、楽しそうに笑うんだけど。

「では、失礼します…、っと、そうだ、気になってたんですけど!」

 立ち上がったままなので、俺の方が見下ろすことになったけど、時間との闘いだから、いちいちもう一度座ってとかやってられない。

「ん?」

 社長は気にした様子もなく、俺を見上げている。

「もしも、ですよ。俺がくじの景品持ってこなくて、預かったお金、ちょろまかしてたら、どうしてました?」

 少し目を丸くしたかと思うと、社長は声を上げて笑い出した。
 おかしなこと、聞いたつもりはないんだけど!
 イラッとしたのが表情に出ていたのか、社長は、悪い悪い、と謝ってきた。

「商売柄、これでも、人を見る目はあると思ってるんだ。ちょろまかすような店員じゃないことぐらいはわかる」
「…信頼されたってことでしょうか?」
「そんなところだな。それに、すぐにばれる話だろう? 下のコンビニでバイトしてる限りは」

 確かに。

「ほら、急いでるんだろう? 俺には君のお昼休み時間を延ばす権利はないんだ」
「わー、そうでした。失礼しまーす!」

 事務所を出るまではなるべく丁寧に歩いて、事務所を出た瞬間、エレベーターまでダッシュした。


END
第1話の [side:C] はこれで終わりです。
クラウドさんと謎社長の関係はこの先どうなっていくのか?
第1話の [side:S] は近日(多分、今月中)公開スタートです!
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