HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C] (1)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C]

※1ギル=おおよそ100円換算

 朝の目覚ましは俺が寝不足かどうかなど考慮などせず、けたたましく鳴り響く。
 目覚ましの音楽を好きなゲームのバトル音なんかにしてしまったから、気が焦る。

「あー、昨夜の夜勤、レノさんだったっけ…」

 嫌な予感しかしない。
 お店、無事だといいけどなぁ。
 相変わらず、重力に逆らうようにあっちこっち向く寝ぐせをざざっと直し、手早く身支度を整える。財布ぐらいしか入っていないバッグを背負い、バイクのヘルメットを抱えて、部屋を出る。
 ギラつく太陽の日差しに、一瞬、目を細めて、大きくため息をついた。

「あー、涼むだけの客が増えそうだな…」

 駆け足で階段を下り、駐輪場にあるバイクに近寄る。何故かシートの上で猫が寝ていた。

「暑いだろうに…」

 おーい、と呼びかけてみたけど、動いてくれる気配はない。軽く息を吐き、気持ちよく寝ているネコ様を抱え上げて、日陰に下ろしてやる。にゃー、と一声だけ鳴いて、また、寝るつもりのようだ。
 ネコを横目にバイクに跨り、エンジンをかける。

「行くの、めんどくさいなぁ」

 とは言え、当面の生活費は稼がなければ。
 昨日の夜中、テレビに出ていた、恐ろしく美形な、やり手実業家みたいな生活してみたい。
 そう思ったけれど、そんな生活、まったく想像つかないから、俺には無縁なのだろう。





 バイクを10分ほど走らせて、バイト先に着いた。八階建てのビルの一階にある青い看板のコンビニで、この頃はスイーツが大売れだ。色んな食感が楽しめるらしい。
 バイクを店の端に停めて、ヘルメットを脱ぐ。これからの時期、ヘルメットは暑いけど、しょうがない。
 バイクのサイドミラーを見つつ、髪型を手櫛で整えてから、店の入り口に向かったところで、すまない、と声がした。

「はい?」

と、振り返ってみると、いかにも胡散臭そうな男。
 俺よりは頭一つ分以上、背が高い。サングラスをしていて、マスクもしている。帽子を被った上に、パーカーのフードも被っている。
 えー、俺、こんな人に絡まれるようなことしたかなー?
 夜勤のレノさんの方に御用かな?
 黙っていると、その男も黙ったままだ。
 いや、俺は話の続きを待ってるんだけど。

「あの…?」
「あ、いや、今日から発売のくじがあると思うのだが…」

 あ、一つ7ギルとかするやつかな? 今日からのものとかあったかなぁ。

「そのくじはどのようなものでしょう?」
「…たしか、チョコボとモーグリのグッズ…」

 え? この人、そういうのが欲しい人?
 この風貌でチョコボグッズか…。
 チョコボグッズなら、俺も欲しいな。
 一回7ギルは俺にはなかなかの出費だ。

「準備できてるか、確認しますね」

 俺は男をその場に待たせて、店の中に入った。
 レジのそばに、チョコボやモーグリのグッズを並べるレノさんがいた。

「おはようございます! これ、今日からのくじの景品ですか?」
「おう、そうだぞっと」

 後ろで一つに纏められた赤い長い髪を揺らして、レノさんが振り返る。両方の頬には傷の跡。それでも、イケメンで評判のバイトさんだ。基本的に夜勤だから、会える人は少ないのだけど。
 景品を見せてもらうと、どれもこれも可愛い。モーグリブランケットとか、チョコボの柄のお茶碗とか、俺が欲しい!

「今から買えます?」
「あ、そりゃいいけど。クラウドが買うのか?」
「いえ、俺ではなくて、あの男の人が…」

 俺は入り口の外に立つ、怪しい男の方を見た。

「あれ? あの人…」
「レノさん、お知り合いですか?」
「うーん、確信が持てない。まあ、いいや。くじは買えるって伝えて」
「わかりました」

 店の外で待つ男に、買えますよ、と伝えるついでに、モーグリブランケットの可愛さを力説してしまった。

「…ブランケット?」
「あ、すいません! 可愛すぎたのでつい…」

 男は小さく笑うと、では、これで、と70ギルを渡してきた。
 え? 10回も引くの? いきなり?

「あ、あの、くじは中にありますので、ご自身でお引きになって頂ければ…」
「適当に引いてもらって構わない。景品は後でこのビルの7階に届けてくれ」

 わー、俺に運を託さないでくれますかー?

「いや、あの、俺、くじ運最高に悪いので…」
「それなら、どれだけ悪いか逆に楽しみだ」

 男は楽しそうに言う。表情がわからないので、本当に楽しいのかどうかは不明だ。

「じゃあ、頼んだ」

 男はそれだけ言うと、さっさとビルの入り口へと向かって行った。
 何だよー。このお金、俺がちょろまかしても分かんなくない?
 簡単に俺を信用してもいいのかなぁ。

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