HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C] (3)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C]

※1ギル=おおよそ100円換算

「よぉ。今日も忙しそうだな」
「ああ、ザックスさん! そうなんですよー。お昼どきは戦場です。温めますよね?」
「カツカレーはな」>

 カツカレーとおにぎりとお買い上げしたこの人は、レノさんが言っていた宅配便のお兄さん。宅配便で荷物を何個も運んでいるだけあって、身体はしっかりがっちりしている。精悍な顔つきで、長めの黒髪が特徴的。性格は快闊そのもので、人当たりがいい。この辺りでは有名な人なんだって。近くのオフィスに配達と回収で回っていて、各オフィスの受付のお姉さん方にモテモテらしい。
 いつもこのコンビニの駐車場に車を止めて、車の中でお昼を食べている。その後は昼寝をするんだけど、お昼休み終わっても寝てることが多いから、俺が起こしに行くことがほとんど。
 レンジのブザーが鳴って温めが終わったことを告げる。熱々になったカツカレーの容器を袋に入れて、ザックスさんに渡すと、じゃあ、寝てくるわー、と宣言された。
 俺に起こせって言ってるんだろうな、きっと。
 たしか、13時までがお昼休みって言ってたから、その頃に起こしてあげよう。俺は13時からが昼休みだし、くじの景品を7階にお届けに行かなくちゃいけない。
 お昼の時間帯はお客さんが途切れることなく来るので、レジを離れられない。
 そういえば、いつもやってくるガタイのいいお父さんは今日は来てないか。工事お休みなのかな。毎日来るようなお客さんは嫌でも顔を覚えてしまうものだけど、そのお父さんはプロレスラーかと思うぐらいガタイがいいので、一度見たら忘れない。可愛い娘さんの写真を見せに来るのだ。
 お客さんが途切れたので、大きく伸びをして、息を吐いていると、もう一人のバイトさんに声を掛けられた。

「どうかしました?」
「いや、もう、13時が来るよ、って思って」
「ああ、ザックスさん、起こさないと! ありがとうございます、ついでに休憩してきますね!」

 俺は店の奥のロッカーに向かって、くじの景品が入った袋3つを下げて、店から駆け足で出て行った。
 宅配便のトラックに向かって走り、運転席側の窓をガンガン叩く。コンコンって軽くノックするような程度じゃ起きてくれない。
 ザックスさんは音に気づいたようで、俺に片手を上げてきた。今日はすぐに起きてくれて助かった。大概はもうちょっと時間がかかるんだよな。大変なお仕事だから疲れてるのかも。
 俺は今度はビルの入り口に向かっていく。エレベーターのあるビルで良かった。7階までの階段は辛い。
 エレベーターに乗り込み、7階のボタンを押す。静かにエレベーターは上がっていくけれど、また、あの謎の格好の人に会わなくちゃいけないのか、と思ったら、俺の心臓がバクバク言い出して、俺だけ静かじゃなかった。
 ポーンと到着を知らせる音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
 エレベーターを下りると、扉が一つあった。フロアマップを見たけれど、事務所は一つだけみたい。この扉の向こうにあの男の人がいるんだな。
 意を決して扉をノックすると、はーい、と女の人の声がした。
 扉を開けて出てきた女性は、俺を見るなり、「可愛いー!」と言った。
 俺自身、可愛いイメージはないのだけど、他人から見たらそう見えるのか。今はコンビニの制服着てるから可愛さのかけらもないと思うのだけど。

「何かご用?」
「多分、ここの人だと思うのですが、朝、くじの景品を届けてくれ、と言われまして…」
「くじ?」

 女性が首をかしげている。
 話が伝わってないのかな?
 二人でうーん、と困っていると、ああ、俺が頼んだ、と低い通る声がした。

「あら、社長がくじですか?」

 事務員さんと思われる女性は奥にいるであろう社長に尋ねている。

「急に必要になってな」

 そう言いながら出てきた男の姿を見て、俺は声を上げていた。

「夕べのテレビの人ー!」



◇◆◇

「し、失礼しました。急に声を上げてしまって…」

 景品だけ渡して早々に立ち去ろうと思っていたのに、引き留められて、事務所の中に招き入れられた。応接セットのソファーに座るように促されて、景品の袋を傍らに置き、端の方に座って小さくなった。
 くじを所望した男はまた怪しい姿で出てくるのだろうと身構えていた俺としては、いきなり頭を殴られたような感覚だ。
 まさか、テレビでみた超絶美形の人だったとは思わないじゃないか。
 さらさらの銀髪は今日は後ろでまとめられていて、伊達かどうかわからないけど、眼鏡を掛けている。グレーのスーツにえんじ色のネクタイ。それでもあまり社長っぽさはないし、貫禄みたいなものもない。若いからかな。
 それにしても、眼鏡掛けてても、うわー、綺麗、ってため息ついちゃうぐらいの顔ってどうやったら出来上がるんだろう。不思議だ。

「いや、気にしなくていい。放映された次の日でそのまま顔をさらして歩くのもどうかと思っていたら、結果的に怪しい姿で行くことになってしまった」

 自虐的に笑うその顔も綺麗とかちょっと待って。直視できない。

「く、くじでしたら、急がなくてもよかったのでは?」
「もちろん、当たるも八卦、当たらぬも八卦だからな。だが、遅く行けば行くほど、欲しいものが当たる可能性は下がっていくかもしれない。誰かの手に渡っているとも限らないからな」
 そんなにチョコボとかモーグリのグッズが欲しかったのか、この人。ギャップが酷いな。

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