HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C] (2)
HIGH PRESSURE<謎の男> [side:C]

※1ギル=おおよそ100円換算

 70ギルを持って店の中に戻る。

「あれ? あの人、くじ引かねぇの?」

 レノさんは俺が来たので、業務終わりと思っているのか、制服を脱いで、帰り支度の最中だ。
 いつも思うけど、レノさんのお洋服は派手で、今日は柄の大きめなアロハだ。
 一つ間違えば、巷のゴロツキみたいな感じになると思うんだけど、何故かそこはギリギリのラインでおしゃれさんの部類に入っているらしい。

「いや、あの、託されてしまいまして…」
「一気に10回分も?」

 俺が差し出したお金を見て、レノさんは声を上げる。

「そうなんですよー」
「だったら、やっぱりあの人かもしれないなぁ」

 レノさんはあの男の正体を知っているような口ぶりだ。
 どういう関係なのだろう。あの人もバンド仲間とか? それなら、直接レノさんに頼めばいい話だ。

「で、クラウド、代わりに引くの?」
「俺、くじ運悪いんで、って断ったんですけどねー、逆に悪いのを楽しみにされてしまったようで…」

 景品の一覧を眺めつつ、ため息をつく。
 フィギュアなんかは数少ないから、まず、難しいだろうし。
 最下位のお箸ばっかりになりそうなんだよなー。
 まあ、仕方ない。俺に託したことを後悔してもらおう。
 くじの紙をランダムに10枚引かせてもらって、当たってるかどうかをレノさんに確認してもらう。

「え、あれ、くじ運悪いんじゃなかったのか? 何かの奇跡?」

 くじの中身を確認しているレノさんは驚きの声を上げていて、俺としては何が起きているのかわからない。
 通勤客も減った時間で、お客さんも少ないからいいんだけど、店員二人でわーわー言ってるのは問題だろうな…。

「よし、これが10回分の景品な」

 ビニール袋3つ分に入れられた景品たちを渡される。

「…かさばってますね」
「それはクラウドのくじ運の問題だろ? 一等のフィギュア、二種類とも入ってるし」
「え?」
「くじ運めっちゃよかったぞ、っと」
「ブランケットもあったぞ」
「マジですかー!」

 俺のものだったらよかったのにー! 人のものになるなんて…。
 こんな時にくじ運良くてもよくない!
 がっくり項垂れる俺に、レノさんはよしよしと言いつつ頭を撫でてくる。
 どこか子供扱いなんだよなー。童顔なのは認めるけど。

「あ、お届けに行くなら昼からの方がいいかもな。あの事務所、開くの遅いから」

 レノさんは鞄を持ち上げつつ、そう言った。

「え?」
「あの事務所、何故だか知らないけど、昼前ぐらいに開けるんだよな。それで仕事が回るみたいだから、いいよなぁ。俺もゆったり優雅な生活してみたいぜ」
「七階の事務所ってどんなお仕事の人が?」
「このビルのオーナーがやってる不動産屋さんみたいなもので、貸ビルとか貸オフィスとかしてるらしい。お金持ちってことだな」

 そりゃ、一気にくじ10回とか余裕だな。70ギルとか、はした金なのかも…。

「そんな人が、このくじを必要とするんですねー」

 俺は袋の中のチョコボグッズ達を眺めた。
 実は小さい子供がいて、子供にせがまれたとか。いや、雰囲気若そうだったから、それはないなぁ。単なるチョコボ好きか。

「まあ、欲しかったんだろうな。で、ほら、昼ぐらいにいつも宅配便の兄ちゃん起こしてるだろ? そのついでに行くとちょうど良いかもな」
「あー、そうですねー。それが一時ぐらいですから、そうしますね」
「じゃあ、お疲れーっ! あと、よろしく!」
「今晩、また、入るんですよね?」
「おう、また、夜にな!」

 レノさんは軽く手を上げると、慌ただしく出て行った。その後ろ姿を見ていると、女子が近寄ってきて、何やらレノさんを引き止めている。
 モテる人は大変だなと、ひとごとのような感想を心の中で述べてから店の奥に行き、景品の袋をロッカーにしまう。着ていたパーカーを脱ぎ、青と白のストライプの制服を羽織って、名札をつけ直す。名札もうちょっと小さいといいんだけどなぁ。俺の名前を堂々と見せるほどのこともない。バイトの制服は毎日持って帰って洗うことにしている。洗い替えが一枚あるから、交互に着てるけど、雨が降ったりとかで洗濯しづらい日もあるんだよなぁ。もう一枚支給してくれないかな。
 と考えごとをしていると、来客を知らせるチャイムが鳴ったので、慌ててレジへと向かった。

◇◆◇

 在庫数えて品出ししているうちに、お客さんが増えてきた。気づいたら、もう、正午を回っている。
 このビルはオフィスビルじゃないけど、向かいとか裏手にはオフィスビルも建ち並んでいて、会社員の人たちも多い。その人たちのお昼を担っているお店の一つがこのコンビニでもある。
 お昼からのバイトさんもやってきて、二人で客をさばいていると、俺のレジの方に見知った顔の男がやってきた。

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