HAPPY! (2)
HAPPY!

 朝ご飯がすむと、お父さんとお兄ちゃんは二階へ向かった。多分、先ほどの話の続きだろう。
 見に行ってもわからないことはわかっていたので、クレフはリビングで絵本を読んだり、絵を描いたりすることにした。夢中になっていたのか、気づいた時にはもうお昼前だった。
 それでも、お兄ちゃんやお父さんは降りてこない。お母さんも何やら忙しく動き回っているので、今度は絵を描き始めた。

「あ、上手いじゃないか」

 いきなり声をかけられたのでびっくりして、顔を上げる。どうやら真剣に描いていたらしく、30分は優に経っていた。
 お母さんが、クレフの書いた絵を見ながら、すごいなぁ、と言っている。

「絵の才能があるんだなぁ。芸術系だな」

 お母さんが、まじまじと絵を眺めていると、リビングのドアを開ける音がした。

「あれがおかしいとはおもってなかったよ」
「確かにわかりにくいな。まぁ、見つけにくいところではあるけど」

 ぷろぐらむ、とか何とかそういう話が終わったらしい。お父さんとお兄ちゃんが二階から降りて来た。

「なにしてるの? おかーさん」

 お兄ちゃんが、お母さんの持っている絵を覗き込む。

「ああ、クレフが描いたんだ。上手いなぁと思って」

 お母さんは持っていた絵を見せびらかすように広げて、お父さんとお兄ちゃんに見せた。

「ほんとだ。そっくりだ。へぇ、すごいなぁ」
「ああ、良く描けてるな。クレフにはそっち方面の才能があったのか」

 クレフは皆に褒められすぎて急に恥ずかしくなった。自分が好きで何気なく描いたものがこんなに褒められるとは思ってもいなかった。

「ね、ね、もうそろそろ、おひるごはんじゃないの?」

 お母さんの服の裾を引っ張ってクレフは話を反らそうとした。これ以上、自分の絵について何か言われるのを止めたかったからだ。

「ああ、そうだ。それを言いに来たんだった。ちょうど、二人とも降りてきたし、ご飯にしよう」





 お昼ご飯がすんだ後、クレフとお兄ちゃんは後片付けを手伝い、お母さんに遊んでもらう約束をした。

「何して遊ぶんだ?」
「でんしゃごっこ!」

 お母さんの問いに、クレフは思い切り手を上げて提案した。

「きょうはボクが、しゃしょーさん!」
「はいはい、カインはそれでいいのか?」
「う、うん…。べつに」

 三人は庭に出ると、電車ごっこを始めた。
 庭を大きく三周ほどしたところで、クレフは急に前に進めなくなったのに気付いて足を止めた。
 振り返ると、お母さんも後ろを振り返っていた。どうやら、一番後ろをついてきていたお兄ちゃんが足を止めたらしい。

「おかあさん…」
「なんだ? どうかしたのか?」

 お母さんがしゃがんで、お兄ちゃんの顔を覗き込む。
 その視線から逃げるようにお兄ちゃんは目をそらすと、家の方を向いた。
 難しいような憎らしいような顔をして家を見ている。
 そのまま表情を変えずに、お兄ちゃんは「おかあさん」と言った。
 クレフには、その声はとても哀しそうに聞こえた。今、自分の目に写るお兄ちゃんの表情とは裏腹に。

「おかあさん…、おとうさんのところへいっていいよ」

 お母さんが、肩をゆらす。

「きになるんでしょ?」
「そんなことないけど。さぁ、続きをやろうか」

 お母さんがゆっくり立ち上がって、お兄ちゃんに笑いかける。

「そんなことあるよ。さっきから、ずーっと、いえのほうばっかりみてるじゃないか」

 もう一度、お母さんが肩を揺らす。

「ぼくたちもおもしろくないよ。そんなんじゃ」
「…カイン…」
「はやくいったら。ぼくたちほかのことしてあそんでるよ。クレフ、ボールであそぼう」

 クレフはお兄ちゃんに誘われるまま後をついて、別の場所へと向かった。
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