永久(とわ)に刻む (1)
永久(とわ)に刻む

 セフィロスは相変わらずソファーに座って、洋酒のグラスを傾けている。
 いつもと違うのは膝の上に本がないことだ。
 普段は膝の上に本を置いて、左手でページを捲りながら、右手でグラスを握っているのだが、今日は本を読むことはしていなくて、テレビをじっと眺めている。
 確かに大晦日で、テレビ番組も特別に編成されていて、普段とは違った内容になっているから、セフィロスでも見ようという気になるかもしれない。
 テレビの中からは、もうすぐ新年を迎えるということで、心なしかテンションの高い声が聞こえてくる。
 一年を終え、また新しい年を迎え、そして、その一年を終える。そんな繰り返しを続けてきたけれど、この先もその繰り返しを続けることができるのだろうか。
 ここにいるセフィロスと二人で。

「クラウド」

 不意に呼ばれて、俺はびくっと肩を揺らしてしまった。そのせいでトレーに乗せていたコップが揺れ、ココアが少し零れた。

「どうかしたのか?」
「…ううん、何でもないよ…」
「…何でもないって顔じゃないぞ」

 セフィロスは何でも一瞬で見抜いてしまう。何も言わないでいても、すべてわかっている。俺の心の中まで全て。
 どうやっても隠せないことは一緒にいる時間の中で、学習したけれど、だからといって、何でもかんでも晒せるものではない。楽しいこと、嬉しいことはいいけれど、言いようもない不安とか悲しみは共有したいとは思っていない。
 それでも、セフィロスは。

「何を抱えている?」

 全てを受け止めようとする。

「…何も抱えてなんかいない。気のせいだろ?」
「嘘をついても無駄だってわかってるんだろう?」

 俺に曝け出させる。

「…俺は……」

 持ったままのトレーをテーブルに置いて、セフィロスの横に腰を下ろした。
 『今年はいい年でしたかー?』とテレビの中では一年を締めくくろうとしている。

「…セフィロス、今年もお世話になりました」
「何だ、急に改まって」
「セフィロスは俺のために色々してくれてるから、ちゃんとお礼は言わないと」
「…そんなものはいらない。俺は別に世話をしているという感覚はないし、クラウドが喜んでくれればそれでいい」

 セフィロスが柔らかい笑顔を見せて、俺の頬に触れてくる。
 この人の思いを受け止めて、同じだけの思いを返すために、俺は何ができるだろう。
 俺がこの人の傍にいるためには何をすればいいのだろう。
 どうしたら、この人は俺の傍にいてくれるのだろう。

「セフィロス…っ!」

 俺はセフィロスの隣にいるというのに、その短い距離さえも縮められないような気がして、そんな嫌な気分を拭い去るようにセフィロスに抱きついた。
 セフィロスは俺の体をぎゅっと抱きしめてから、左手で俺の頭をあやすように撫でてくれた。

「…どうした、クラウド?」
「来年も、この先もずっと一緒にいてほしい…」
「言われなくてもそのつもりだが?」
「…一緒に一年を過ごして、新しい年を迎えたい。同じことの繰り返しだけど、セフィロスと一緒じゃなくちゃ嫌なんだ…」

 俺にとってのこの世界はセフィロスがいることで成立する。その世界を俺はなくしたくない。

「それが、抱えてたことか?」
「…あ、え、いや……、抱えてたというか…」

 結局、共有したいと思っていなかった思いを俺はぶちまけてしまっている。この俺の不安がセフィロスに気を遣わせることになっているのに、だ。

「…もっと、吐き出せ。でないと、クラウドが辛い思いをする」
「いや、辛いとか、そういうことじゃなくて…、ただ、ちょっと怖くなっただけ……」
「俺がいなくなるとでも…?」
「いなくならない、っていう確信が欲しい…」

 セフィロスの背中に回した手に力を込める。こうやって縋りついていないと安心できなくなってるなんて、思ってもみなかった。
 ただ、年が明けるという何か大きな切り替わりがあるから、気持ちが落ち着かないだけならいいんだけど。

「いなくなるわけがない。俺はクラウドがいるところにいる、と決めてる」
「…うん、ありがとう。そう言ってくれるのはわかってた…」
「つまり、言葉だけでは確信できないってことだな」

 セフィロスはそう言うなり、俺をいきなりソファーに押し倒してきた。すぐに肩を押さえつけられ、身動きが取れなくなる。
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