HIGH PRESSURE<曲者だらけの客> [side:C]
※1ギル=おおよそ100円換算
※1ギル=おおよそ100円換算
夕方にはなったものの、近所の会社は仕事が終わるのはもう少し遅くて、今はお店の中に人はほとんどいない。普段は18時を回らないと会社帰りの買い物客は増えてこない。
商品の在庫を確認したり、細々としたことをもう一人のバイトさんとやっていると、来客を知らせる音が鳴った。
冷蔵庫の裏から、レジの方に回ると、この界隈で名の知れたお金持ちの人(コルネオさんとかそういう名前だったかな)が入ってきた。手には大きな宝石がついた指輪をしていて、モヒカンにしている。頭のてっぺんの髪の毛と、お腹を揺らしてのそのそ歩いている。何だかわからないけど、暑苦しく感じる。
「いらっしゃいませー」とマニュアル通りの挨拶だけして、また、冷蔵庫の裏に戻ろうとしたところで、ガチャガチャガチャという音が響いた。
反射的に振り返ると、レジ前のお買い得品を並べた机が倒れていて、お買い得品たちが床に落ちていた。近くにいたコルネオさんは、胸を掴んでうずくまっていた。どこか苦しそうだった。
「大丈夫ですか?」
側でしゃがみ込んで手を差し伸べると、いきなりぎゅっと捕まれた。
「…悪い…のぉ…。少し持病が悪化したようで……」
「お医者さん、呼びましょうか?」
「…いやぁ、そこまでしてもらわんでもいい。大分、落ち着いてきたしのぉ…」
そう言いながら、顔を近づけてくる。そんな至近距離で見られても困るし、こちらは別に見たいとは思っていない。
「そうですか? じゃあ、立ち上がれますか?」
「手を貸してもらえれば、立てる」
いや、もう、手は貸してるし、しっかり手掴んでて、離してくれない感じだ。
「じゃあ、立ち上がりましょうか」
せーの、と声を掛けて一緒に立ち上がったところで、コルネオさんはよろめいて、俺に抱きついてきた。
「わぁ!」
ここであからさまに突き放すわけにもいかない。どうしようと思案しているうちにコルネオさんの手が腰を撫でてきた。
「!?」
全身が一瞬にしてゾゾゾっと粟立つ。
あまりのことに声を出せないでいると、「これはコルネオさん」と低い通る声が聞こえた。コルネオさんの肩越しに入り口の方へ視線をやると、背の高い男が長い銀髪を風に揺らせて立っていた。あれは、お昼間のくじの人でテレビの人だ。
あの人が来ただけで、何か店の雰囲気が変わるなぁ。類を見ない美形は周りの空気も変えられるのかも知れない。
「コルネオさん、どうかされたのですか?」
コルネオさんは驚いたのか、俺から慌てたように離れると、くるりと向きを変えて、俺に背中を向けた。
「…いや、ちょっと持病が出てしまって、立っていられなくなってしもうて」
「それはそれは。おけがなどはなかったですか? いい医者を知っていますよ。ご紹介しましょうか?」
「い、いや、セフィロスさんにそんなご迷惑はかけられん。では、これで」
あの人、『セフィロス』っていう名前なのか。テレビで言ってたはずだよな。
「クラウド君、悪かったなぁ。迷惑掛けて」
「いえ…」
俺は軽く首を振って、お大事に、とだけ声を掛けた。
コルネオさんが店を出て行くのを見送ってから、大きく息を吐き出す。
あのおじさん、よくわかんないんだよなぁ。俺にちょっかいかけてきて、どういうつもりなんだろう。ジェシーとか女性店員の方がいいんじゃないのかなぁ。
「大変だったな」
声に顔を上げると、くじの人が不憫そうな顔で俺を見ていた。
「あ、いえ。まあ、今日はあからさまでしたけど…」
「今日は?」
「たまにちょっかいかけてくるんですよね。何ででしょう?」
「…さ、さあ、何でだろうな…」
くじの人は俺から目をそらして、言葉を濁らせる。よくわからないな。この界隈、何か違うのかな。
「あ、そうだ。お名前、セフィロスさんっておっしゃるんですね」
「え?」
くじの人は声を上げて驚いた。割と淡々としてるのかと思ったけど、感情豊かなんだな。
「お名前です。さっきコルネオさんが言ってました。テレビを見ていたときにお名前出ていたはずなのに、俺、覚えてなくて、すみません」
「いや、謝らなくていい。景品を持ってきてもらったときに名乗っていなかった俺も悪い」
セフィロスさんは軽く頭を振ってから、レジの奥に目をやった。
商品の在庫を確認したり、細々としたことをもう一人のバイトさんとやっていると、来客を知らせる音が鳴った。
冷蔵庫の裏から、レジの方に回ると、この界隈で名の知れたお金持ちの人(コルネオさんとかそういう名前だったかな)が入ってきた。手には大きな宝石がついた指輪をしていて、モヒカンにしている。頭のてっぺんの髪の毛と、お腹を揺らしてのそのそ歩いている。何だかわからないけど、暑苦しく感じる。
「いらっしゃいませー」とマニュアル通りの挨拶だけして、また、冷蔵庫の裏に戻ろうとしたところで、ガチャガチャガチャという音が響いた。
反射的に振り返ると、レジ前のお買い得品を並べた机が倒れていて、お買い得品たちが床に落ちていた。近くにいたコルネオさんは、胸を掴んでうずくまっていた。どこか苦しそうだった。
「大丈夫ですか?」
側でしゃがみ込んで手を差し伸べると、いきなりぎゅっと捕まれた。
「…悪い…のぉ…。少し持病が悪化したようで……」
「お医者さん、呼びましょうか?」
「…いやぁ、そこまでしてもらわんでもいい。大分、落ち着いてきたしのぉ…」
そう言いながら、顔を近づけてくる。そんな至近距離で見られても困るし、こちらは別に見たいとは思っていない。
「そうですか? じゃあ、立ち上がれますか?」
「手を貸してもらえれば、立てる」
いや、もう、手は貸してるし、しっかり手掴んでて、離してくれない感じだ。
「じゃあ、立ち上がりましょうか」
せーの、と声を掛けて一緒に立ち上がったところで、コルネオさんはよろめいて、俺に抱きついてきた。
「わぁ!」
ここであからさまに突き放すわけにもいかない。どうしようと思案しているうちにコルネオさんの手が腰を撫でてきた。
「!?」
全身が一瞬にしてゾゾゾっと粟立つ。
あまりのことに声を出せないでいると、「これはコルネオさん」と低い通る声が聞こえた。コルネオさんの肩越しに入り口の方へ視線をやると、背の高い男が長い銀髪を風に揺らせて立っていた。あれは、お昼間のくじの人でテレビの人だ。
あの人が来ただけで、何か店の雰囲気が変わるなぁ。類を見ない美形は周りの空気も変えられるのかも知れない。
「コルネオさん、どうかされたのですか?」
コルネオさんは驚いたのか、俺から慌てたように離れると、くるりと向きを変えて、俺に背中を向けた。
「…いや、ちょっと持病が出てしまって、立っていられなくなってしもうて」
「それはそれは。おけがなどはなかったですか? いい医者を知っていますよ。ご紹介しましょうか?」
「い、いや、セフィロスさんにそんなご迷惑はかけられん。では、これで」
あの人、『セフィロス』っていう名前なのか。テレビで言ってたはずだよな。
「クラウド君、悪かったなぁ。迷惑掛けて」
「いえ…」
俺は軽く首を振って、お大事に、とだけ声を掛けた。
コルネオさんが店を出て行くのを見送ってから、大きく息を吐き出す。
あのおじさん、よくわかんないんだよなぁ。俺にちょっかいかけてきて、どういうつもりなんだろう。ジェシーとか女性店員の方がいいんじゃないのかなぁ。
「大変だったな」
声に顔を上げると、くじの人が不憫そうな顔で俺を見ていた。
「あ、いえ。まあ、今日はあからさまでしたけど…」
「今日は?」
「たまにちょっかいかけてくるんですよね。何ででしょう?」
「…さ、さあ、何でだろうな…」
くじの人は俺から目をそらして、言葉を濁らせる。よくわからないな。この界隈、何か違うのかな。
「あ、そうだ。お名前、セフィロスさんっておっしゃるんですね」
「え?」
くじの人は声を上げて驚いた。割と淡々としてるのかと思ったけど、感情豊かなんだな。
「お名前です。さっきコルネオさんが言ってました。テレビを見ていたときにお名前出ていたはずなのに、俺、覚えてなくて、すみません」
「いや、謝らなくていい。景品を持ってきてもらったときに名乗っていなかった俺も悪い」
セフィロスさんは軽く頭を振ってから、レジの奥に目をやった。
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