cry for the moon (1)
cry for the moon

 月の光がはっきりと地面を照らすほどに澄み切った夜道を歩く。
 任務を全部こなして、自室に帰ってきたものの、どうにも落ち着かなかった俺は部屋を出て、歩くことで気を紛らわそうとしていた。
 時間も時間で、そろそろ日が変わろうかというころだった。
 兵士の姿もほとんどなく、昼間なら人で賑わうような場所も今は静まりかえっている。
 そんな道をただ歩き、ぼんやりと考える。
 俺は別に偉くはない。
 任務をこなすことができる、それだけだ。
 凄いことをしたなんて思ったこともない。
 だから、報酬なんてものはいらない。そもそも、欲しいものなんてないわけだから、仮にもらったところでありがたみなど感じないだろう。
 もし、言うことを聞いてくれるというのであれば「英雄」という大層なレッテルをはがしてくれればいい。
 それぐらいだ、俺の望みは。
 手にした刃に力を込めて、歩みを進める。
 静けさを敷き詰めた道に響き渡るのは俺の足音だけだ。
 そんな足音に耳を傾けていると、違う音が被さってきた。
 それは人の声だった。
 話し声とは違う。
 呼吸が荒い感じ。
 声のする方に近寄ってみると、兵士が一人、剣を振るっていた。
 剣の練習だろうか。
 俺の存在には気づいていないようで、一心不乱に剣を振り下ろしては、横になぎ払っている。
 兵士であるようだけれど、背は低めで、見るからに華奢である。
 どうして、兵士になどなっているのだろう。
 興味がわいて、一歩踏み出した瞬間、兵士が振り返った。兵士は剣を握り直し、身構えている。
 こんな夜中に歩いている男と遭遇すれば、それは仕方ないことだろう。
 ヘルメットを被っているので、顔や表情は読み取れない。
 兵士も俺の顔は判別できないだろう。
 俺が月を背負ってしまっている。
 もし、銀髪だということがわかれば、俺が誰であるか判断は可能であろうけれど、ヘルメット越しでは難しいはずだ。

「稽古の最中か?」

 兵士は無言で後ずさる。
 一歩前に足を踏み出すと、またも兵士は後ずさっていく。
 俺との間合いを計っているのか、ただ、恐怖に怯えているのかはわからない。
 さらに大きく足を踏み出して、刀を素早く振り下ろしてやる。
 カン、と刀同士が当たる音がして、俺は思わず、軽く笑ってしまった。

「…な、何が…おかしい…っ!」

 俺の刀を受け止めた兵士は、毅然と俺に向かってくる。

「…いや、俺の剣を受け止められる奴が他にいたとはな…」
「…一体、アンタは……」
「さあ、続けるぞ」

 俺は兵士に向かって、何度も斬りつけに行くが、兵士の反射神経はずば抜けているようで、全て受け止められる。
 ただ、兵士の方は受け止めるのが精一杯らしく、前に進んではこれない。
 俺がどういう意図で刀を振り下ろしているか、までは考えが及んでいないのだろう。
 俺は前に大きく進みつつ、刀を振る。三合ほど刀を合わせたところで、兵士がうわ、っとバランスを崩した。兵士の手からは刀が落ち、兵士自身は大きく後ろにひっくり返った。
BACK