今年もよろしく (1)
今年もよろしく

 テレビからは新しい年を祝う声が聞こえてきて、煌びやかな衣装を纏った出演者が楽しそうにゲームに興じている。
 別に浮かれるようなことでもない。
 セフィロスはテレビをぼんやりと眺めながら、お猪口を傾けていた。
 もちろん、新しい年を意識して、何か意識を変えたり、目標を掲げることはいいと思うし、気合も入りやすくていいだろう。
 ただ、セフィロスにとっては、また、新しい日が来ただけの話。
 しかも、今日はすでに正月二日目。太陽は既に西に傾いている。

「あー! もう、飲み始めてる!」

 お盆にお皿を数枚乗せて、クラウドが通称、ウータイの間にやってきた。
 ウータイの間はセフィロスとクラウドが住む屋敷の中にある一部屋で、畳敷きの部屋だ。
 寒い時期はコタツが設置されていて、コタツに入ってアイスを食べるのがいいんだ、とクラウドが力説していた。
 
「…ああ、悪い」
「もう! 口寂しくなったら、酒かタバコって、健康に悪いだろ!」

 セフィロスは小さく笑って、お猪口を置いた。

「俺に健康のことを言うとはな。まず、病気になどならないのに」
「そうだけどさっ!」

 クラウドがこたつの上に並べるお皿の上には、色々な料理が盛り付けられていた。
 おせち料理というものらしい。新年に食べるのだ、とセフィロスはかなり昔、クラウドに教えられていた。
 おせち料理自体は大晦日から元旦にかけての年越しパーティーとか言う名目での飲み会で並べられていたのだが、その時にはクラウドはあまり食べられなかったのだろう。  ザックスやらエアリスやら、しまいにはタークスまでやってきていていたので、相手するのに必死だったと思われる。
 その証拠に、パーティーがお開きになった元旦の夕方から、今日、二日目の昼頃までクラウドは寝ていて、一度も目覚めてはいなかった。

「まあ、クラウドが気にしてるのなら、少し控えるとするか」
「本当にー?」

 クラウドは軽く笑いながら、セフィロスの右側に座った。
 こたつは長方形のため、セフィロスの横にクラウドが座っても広さに問題はない。ただ、別の辺に座った方がゆったりしてるのではないか、とセフィロスはクラウドの方を見てみた。

「よし、食べるぞーっ! …ん? どうかした?」
 クラウドは数の子をぽりぽり食べながら、セフィロスの方に視線を移す。

「いや、そっちの方がゆったりしてるんじゃないかと…」
 セフィロスは右手で右手斜め側を指差した。ちらりとクラウドは指の先を見たが、すぐに首を振った。

「…テレビ、見づらいんだよ」
「…なるほど…」

 セフィロスはそれ以上は何も言わず、お猪口を手に持って、規則的に口元とこたつの上を往復させた。
 テレビの中は盛り上がっていて、御年玉争奪戦とかいう名目でゲームを始めている。

「ケーキ!」

 クラウドがいきなり叫ぶので、ぼんやりしていたセフィロスは反射的にテレビに焦点を合わせた。
 画面にはケーキの写真が大写しになっていて、でかでかと視聴者プレゼントと書かれている。

「あのケーキ、美味しいっていう評判なんだ! すぐ売り切れるんだよなぁ! セフィロス、クイズに正解すれば当たるって!」

 クイズを解けという圧力に押されて、セフィロスはテレビに映し出されたマッチ棒クイズを解く羽目になった。
 問題と答えの候補が出た瞬間、セフィロスは答えを口にした。

「え? もう、わかったの?」
「ああ、『d』が答え。いいから、早く応募しろ」

 クラウドに応募の指示をしてから、セフィロスはクラウドの様子を眺めた。
 リモコンを必死に操作して、応募を完了させようとしているクラウドはいつになく、子供っぽくて何だか可愛かった。
 思わず笑みが零れるのを押さえるように、お猪口を口に運んだが、一滴の酒も入っていなかった。
 徳利から酒をお猪口に注ぎ、ちびちびと飲んでいるうちに、クラウドは応募を終えたらしく、また、おせちに箸を伸ばしている。今年の年越しパーティーは考えないと、おせちもお酒も足りなくなっちゃう、とブツブツ文句を垂れながら、だ。
 パーティー自体を中止にしないのは、クラウドが楽しいからだろう、とセフィロスは考えている。
 普段は二人で生活している広い屋敷に、お客さんがたくさん来てわいわい盛り上がるのは、クラウドにとってはいい息抜きになるだろうし、刺激にもなる。クラウドがやりたくてやっているのであれば、口を出す気はないし、好きにすればいい。

「…ふー、お腹いっぱーい」

 いつの間にかクラウドは、湯気の立ち上る湯のみを両手でもっていて、ホッコリしている。

「もう、いいのか?」
「んー、今日の分はおしまい。おせちはまた明日…」

 そう言うと、クラウドはセフィロスの肩にもたれかかってきた。

「眠いなら、ちゃんと寝ろよ」
「…少しの間だけ、こうしてる…」
「…少しだけだぞ」

 クラウドはこくんと頷くと、セフィロスの右腕に絡みつくようにして、眠ってしまった。
 右腕を拘束されたままではあるが、酒を飲むことと、おせちを摘まむことには不自由はしない。
 テレビからはまた視聴者プレゼントの声が聞こえてくる。

「…あー、希少な酒じゃないか…」

 リモコンは遠いし、動いたらクラウドを起こしてしまうため、セフィロスは応募を断念して、おせちを食べることに専念した。
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