切望するもの (1)
切望するもの

 急に夜中に目が覚めて、酷い喉の渇きに襲われていることに気づいた。
 隣ではセフィロスが、静かに眠っている。
 まるで彫刻のように微動だにしない。とは言っても、セフィロスのことだ、俺が目覚めていることも気づいているのだろう。
 俺はベッドから抜け出て、シャワールームへ向かった。
 玄関の脇を通りすぎるときに、薔薇の香りが漂う。
 毎年恒例のことだ。俺の誕生日に抱えきれないほどの薔薇をくれるのは。どこで仕入れた情報なのかは知らないが、『大切な人に薔薇を贈るといい』と聞いたそうだ。
 シャワールームの鏡の前に立って、右の肩に小さく咲いている赤い痕を指でなぞった。
 所有印。
 俺がセフィロスのものであるという証。
 軽く息を吐き出すと、ピアスを洗面台の小物入れに放り入れる。
 ピアスも恒例のプレゼントだ。俺の瞳の色によく似た蒼い石の入ったピアス。毎年デザインは違う。どんなデザインのものを俺に贈ったのか、全部覚えているのだろう。セフィロスの記憶力は普通の人間と比べ物にはならない。
 実は石の色も毎年微妙に違うのだ。
 コックを捻って、熱めのシャワーを頭から浴びる。
 洗い流したかったのは、夏の夜の蒸し暑さによって湿った体ではなく、俺の中に湧き上がってくる想いだった。
 ほんの数時間前のことだ。
 指を絡め、唇を重ねあい、一つになった。
 何度も貫かれ、まるで壊れた機械のように声を上げ続けるほどの快楽に酔っていたのは。

 それなのに。

 もう、俺の体は、心は。
 欲しがってやまない。

 焼けた砂のように、体の奥が熱い。

 この熱を冷ましてくれるのは、たった一人だ。
 だが、今、そのことを伝える気にはならなかった。


 足元を流れていくお湯をしばらく眺めてから、俺はシャワールームを後にした。


 バスローブを纏って、リビングのソファーに腰を下ろす。
 喉は渇いたままだ。
 氷をグラスいっぱいに入れて、ミネラルウォーターを注いでみたものの、飲む気が起きない。
 渇いているのは喉なんかじゃないからだ。
 膝を抱えて、頭を埋める。

 俺は何か不安になっているのだろうか。
 それとも、ただ、単純に、感じたいだけなのだろうか。



「…クラウド…」

 軽く頭を触れられ、俺はゆっくり頭を上げた。

「言いたいことでもあるのか?」

 セフィロスは片手に洋酒の入ったグラスを持って、俺の横に座った。

「……別に……」

 と口をついて出たが、言いたいことならある。それも、たった一言だ。

「俺に遠慮か?」

 俺は静かに首を振った。
 遠慮しているという思いはなかった。遠慮というよりは、その言葉を言ったことにより、その後がどうなるか、ということに怯えている。

「言いたくないのか?」
「言うのが…怖い……」
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