キスの日 (3)
キスの日


 ◇◆◇

 キスの日、終わったな…。
 窓の外が白んで行くのを見ながら、俺はふとテレビで見ていたことを思い出した。
 キスの日にキスをしたかったとかそういうわけでもない。少しイベントごとに乗っかってみたかったかな、というささやかな思いだ。
 でも、日が変わるギリギリだったけど、浴室ではキスされたっけな。

「…今日、仕事かどうか聞き忘れたな…」

 隣で静かに眠るセフィロスの頬に触れようとしたときだった。
 いきなり手を捕まれる。

「どうかしたのか?」

 俺のほんの些細な動きにも過敏に反応する。基本的に眠りが浅いのと、寝ていても警戒心が強いんだろう。

「…何も。仕事は?」
「…さあ?」

と言いながら、セフィロスは身体を起こして、俺の上に覆い被さってくる。

「さあ、って社長、何も言わなかったのか? 昨日の帰りとか…」
「何も言わなかったから、休みでいいんだろう。何か言われてたとしても、休みにするが」
「…ほんと、自由だなぁ」
「五日間も拘束されていた上、明日も来いとか、非道すぎるだろう?」

 非道って…。会社員って社長命令聞かなくてもいいのか?

「せっかく、クラウドとの夜を楽しんだのに、その余韻を捨てるとか、あり得ないな…」
「…ちょ…っ、もうっ!」

 セフィロスは俺の首筋に舌を這わせつつ、訳のわからないことを言っている。あり得ないのはその考え方だよ。

「クラウドの声が聞きたい…」
「は? 聞いてるだろう?」
「そういうことじゃない」

 セフィロスはにやりと口元を歪ませる。こうやって笑うときは本当に威圧感たっぷりになるんだけど、普段はアヒル口でちょっと可愛い。
 口元を見ながら、そうだ、と呟いた。

「何が?」
「昨日、ニュースでやってた。キスの日だったんだって」
「キスの日? キスでもしたら何かいいことあるのか?」
「さあ? 試してみる?」

 そう言いながら、セフィロスの頬を両手で包んで引き寄せる。

「試さなくてもわかる」
「わかる?」
「だから、試さない」
「え?」

 セフィロスはそう言うと、唇を重ねてきた。すぐにセフィロスの舌が滑り込んできて、俺の舌は絡め取られる。舌を絡ませ合い、口中を嬲られていくうちに、飲み込めない唾液が口の端から流れ落ちる。

「ん…っ!」

 ろくに息も継げない状態になって、セフィロスの腕を掴んだところで、ようやく唇は解放された。
 二人をつなぐ白い糸に、俺はなぜが恥ずかしくなって、口元を手の甲で拭った。

「いいことあった」

 セフィロスの言葉に俺は首をかしげる。

「クラウドとキスしたら、クラウドのこんな蕩けた可愛い顔が見れる」
「…それって、いいこと?」
「いいことだろ? 俺だけだぞ、見られるのは」
「…ああ…、そう…ですねぇ…」

 当たり前のことすぎて、他の感想が出てこなかった。それに俺のこんな蕩けた顔を見たところで、何も起きはしないだろう。だけど、俺にとってはキスでいいことは起きていて。

「クラウド、そっけないぞ…」
「アンタが普通に当然のことを言うからだろ」
「そういうクラウドはどうなんだ?」
「いいこと? 起きてるよ。だって、セフィロスとキスできたんだし」

 そう言って笑うと、セフィロスはぎゅっと俺に抱きついてきた。

「…ほんと可愛いなぁ、クラウドは」
「可愛くないって何回言わせるんだよ! 今度、可愛いって言ったら、ケーキ食わせる!」

 セフィロスの背中に腕を回して、鼓動が感じられるぐらい抱きしめ返す。

「ケーキは勘弁してもらいたい。じゃあ、可愛いはやめよう」
「それは可愛いの代わりがあるって…こと…っ、こら、…ああんっ!」

 セフィロスが不意に胸を弄ってきたので、構えることができず、うっかり声を漏らしてしまった。
 声を押し殺しながら笑って、『やらしい、にしよう』とセフィロスは言う。

「褒め言葉になってないっ!」
「じゃあ、色っぽい」

 セフィロスはそう言いながら、ずっと俺の胸を責めてくる。止めろって言っても聞かないだろうな、これは。

「…きっと、アンタに抱かれてるからだろうな」

 セフィロスは一瞬動きを止めて、俺の顔を覗き込んできた。

「…何だよ」
「…何でもない…」

 ほんの一瞬だったけれど、確かにセフィロスは照れていたと思う。普通の人ではわからない程度だ。
 そのままセフィロスは何も言わず、また、俺の胸を責め始める。その気なのだろう。
 俺は抵抗もせず、セフィロスに抱かれる幸せに浸ることにした。


END
短いお話でしたが、お付き合いありがとうございました!
このお話は相沢さんのキスの日のイラストを基に書かせていただきました。
キスの日から大分ずれましたが…。
基になったイラストはこちらから→  (イラストのページに移動します)
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