キスの日 (1)
キスの日

 もう、日が変わりそうだ。
 セフィロスが『社長に連行されてくる』と言いつつ出かけて行ったのが、5日ほど前。
 今日中に帰る、と電話があったのは朝だった。
 帰れないなら、帰るとか連絡してくんな。
 ソファーの上で膝を抱えて丸くなる。
 テレビの街頭インタビューでは彼氏彼女的な雰囲気の二人に『キスの日なんですよ』、とか浮かれたことを伝えている。
 キスの日ねぇ。
 何かと記念日があるのは知っているけれど、そんなことまで記念日になってるとは。
 テレビの中では男女か照れ臭そうにキスを交わしていて、幸せアピールだ。
「いいことだ。幸せを堪能できるなんてな」
 俺が幸せではない、ということではなく、普段幸せを感じにくいという状況ということだ。
 これを相手に言うと、何されるかわからないので黙っておく。
 
「まあ、特殊な関係性ではあるからなぁ…」

 人前でキスがしたいとかそういうことではないけど、大っぴらに公表しづらいというか。
 いや、そんなこと気にはしない人だ。あの人は。
 人前でも平気で抱きしめてきたり、キスしてきたりするし、場所と時間を考えろって何度となく言ってきたけれど、そんなこと聞くような人でもないからな。

「…色んなことを覚悟して決めて、ここにいるんだけどなぁ…」

 俺はソファーにごろりと横になった。
 帰ってくると思って待ってたけど、帰ってこないんだったら、待ってる意味ないか…。
 ま、このまま寝てしまってもいいかな。
 なんて考えてたら、急にガチャリ、と扉が開く音がする。
 どうやら遅い帰宅らしい。いいや、放っておこう。

「クラウド!」
「え?」

 ただいま、とかそういう挨拶もなくいきなり名前を呼ぶから、飛び起きる羽目になった。半分寝かかってたのに。
 腕を捕まれて、無理矢理立ち上がらされる。ぼんやりしたままだから、しっかり立てずにふらつくと、その身体を帰宅してすぐの男に抱き止められる。背は俺より頭一つ分以上高いし、身体も一回り以上大きい男に抱きしめられると身動きとれない。

「わー! 何だよ、急に!」
「クラウド…」
「だから、何?」

 男は何も言わない。
 会わない日が長くなると、帰ってきたらこうやって甘えてくるみたいなことをする。甘えてこられるのは凄く嬉しい。普段なら誰も寄せ付けないような怖さや冷たさを纏っていて、弱さみたいなものも皆無なのに、ふっと、俺の前でだけ、こんな態度を取ってくる。こんな思いができるのはこの世で俺だけだなんて、嬉しいって言葉だけでは表現できない。

「…っ…! セフィ……っ!」

 急に首筋に吸い付かれて、俺は思わず声を上げてしまった。男は頭を持ち上げると、俺を見て、左側の口元を引き上げた。
 ギラついた碧い瞳が何を言おうとしているのか、俺には分かってしまった。

「…っ」

 先のことを考えて思わず喉が鳴ってしまう。
 男は俺を肩に抱え上げると、そのまま歩みを進めていき、階段を上がっていく。

「セフィロス! 歩けるって!」
「知ってる」
「じゃあ、下ろせって!」
「俺が抱えたいだけ」
「…意味わからない…」

 セフィロスはそのまま何も言わずに、寝室へと向かった。ベッドに下ろされるのかと思いきや、そのままベッドの横を通り過ぎ、寝室に併設されている浴室の扉を開いた。

「ちょっと!」
「黙ってろ」

 俺を肩の上に抱えたまま、シャワーのお湯を出し始める。抱えられたままで服も脱いでない俺にもシャワーのお湯は容赦なく当たってくる。

「服ぐらい、脱ぐ時間くれてもいいだろう!」

 肩の上でジタバタしてみるも、セフィロスは気にしてないようで、お湯の落ちる真下に俺を下ろした。頭からお湯をかぶることになるし、洋服はもうびしょびしょで重くなってる。ジーンズじゃなくて部屋着の楽なズボンに履き替えていたのは正解だった。
 それにしても、強引にもほどがある。…いや、自分の欲望を満たすためなら、何も厭わない。

「セフィロス! せっかちすぎる!」
「しょうがないだろ? 5日も抱いてない」

 お湯を浴びてすっかり垂れ下がった長い前髪を書き上げながら、セフィロスは笑う。この笑顔にほだされる俺も俺だ。

「…もう、好きにしろ!」

 セフィロスはさらに楽しそうに笑って、唇を塞いできた。
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