特効薬 (3)
特効薬

「あれ? 俺…?」

 目をこすりながら、ゆっくりと身体を起こす。

「そのまま、眠ってしまったんだろう。ちゃんと寝ればいいものを…。お前が風邪引いたらどうするんだ」

 セフィロスは呆れたようにつぶやいた。すぐ俺の心配するのは熱があろうがなかろうが同じらしい。

「俺のことはいいよ! セフィロスは…」

 セフィロスの手が俺の頬に触れる。昨日、暖かいと感じた手のひらは、もう、暖かくはなかった。

「もう、大丈夫だ。心配かけて、すまなかったな」

 笑みを浮かべたセフィロスは、普段の感じを取り戻したらしく、すっきりした顔をしていた。なんだか、俺が心配したのがすごく損した気分になる。

「これからは気をつけるように! 心配する方の身にもなってくれ」

 悔しさをぶつけるように椅子から立ち上がった俺の手を、セフィロスが掴んできた。

「何?」
「蜜蜂の館…」
「リーブさんと行ってきたんだろ?」
「バイトしてたんだってな? 何のバイトだ?」
「え?」

 しっかり覚えてるとは思ってなかった。あの時、熱で朦朧としてたんじゃなかったのか? いい言い訳がないものかと考えてると、いきなりセフィロスが俺の手を引っ張った。俺は思い切り前に倒れこんで、セフィロスの腕に抱きとめられた。

「セフィロス!」
「言えないようなバイトか?」

 至近距離でにらまれると本当に怖い。でも、また怒ってはいないらしい。といっても、セフィロスが本気で俺に怒ったことってあったかな。

「…もし…そうだったとしたら?」
「俺以外に奉仕していた過去があるということだな?」

 声のトーンが下がった。少しむかついたのかもしれない。この先の言葉しだいでは、セフィロスが怒る可能性もある。

「セフィロス…」

 名前をつぶやいてから、俺はセフィロスの唇をふさいだ。舌を差し入れると、セフィロスは俺の舌を絡め取って、口の中を執拗に責めてきた。
 しばらくそうしてから離れた俺とセフィロスの間は、白い糸でつながれていた。

「…はぐらかしたのか…?」
「そうじゃないよ。俺はセフィロス以外に奉仕するようなことはしてないっていうこと。俺は昔も今もこれからも、セフィロスしか愛さないよ」
「…ふーん…」

 疑わしそうな視線をよこしてきたセフィロスに俺は笑顔を向けた。

「何なら、証明しようか?」
「ほぉ。それは、楽しみだ」

 いつもと変わらない不敵な笑顔を見せたセフィロスは、風邪を引いていたということをみじんも感じさせなかった。

「今日はバレンタインだから、そのイベントを終わらせてから、だな」
「ここでお預けか…」
「楽しいことがいきなりくるよりは、楽しみまでが長い方がいいだろ?」
「お前の持論には賛成しかねるが、たまにはいいだろう」

 セフィロスはベッドに横になった。平気な顔してたけど、もしかしたらまだだるいのだろうか。心配になってセフィロスの顔を覗き込んだ俺に、セフィロスは、大丈夫だ、と言ってきた。

「…まだ、完全に治ってないのか?」
「大丈夫だ。クラウドが治してくれるだろうからな」

 セフィロスは明らかに後のことを期待したような、顔を見せた。口の端だけで笑ってるセフィロスは、俺がその顔に弱いってことはきっと知らない。何かをたくらんでるような、それでいて、逆らえないだろう?と威圧するような笑い方。

「…俺に…そんな力があるかな…?」
「あるだろう。俺にとっては特効薬だからな」

 どうして、この人はあっさりと人が喜ぶようなせりふを吐けるのだろう。
 うれしさのあまり抱きつきそうになるのをこらえて、意地悪く言ってみる。

「蜜蜂の館のお姉ちゃんたちにも、そういうせりふ、吐いたりするの?」
「…さてな……」
「セフィロス!」

 と、叫んで気がついた。セフィロスにはめられたことに。でも、これがいつものセフィロスのやり方で、熱は下がっていることを証明していた。はめられたことは悔しいけれど、それよりもセフィロスが元気になりつつある方がうれしかった。

「やっぱり、そういうセフィロスが好きだよ、俺は。だから、もう、風邪引くなよ」

 俺はそれだけ言うと、寝室を後にした。





 バレンタインのディナーには、俺の思いを目いっぱいつめて。

 ディナーの後は、セフィロスの腕の中で、愛の言葉を唱える。

 セフィロスが言ったみたいに、特効薬になれるように…。


END
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