特効薬 (1)
特効薬

 今日もセフィロスは社長に呼ばれて、会社に出かけていった。このところ珍しく毎日出勤させられている。セフィロスは家では仕事の話は一切しないから、どうしてセフィロスがこんなに呼び出されているのかは不明だ。
 今朝は今朝で、俺に「部屋を掃除しておいてくれ」と言い残して、朝ごはんも食べずに出て行ってしまった。

「全く、社長は何を考えてるんだ…」

 誰に聞こえるともなく呟くと、椅子にかけられっぱなしのジャケットを持ち上げた。
 ジャケットから小さなものが足元に落ちた。
 拾い上げてみると、それはいまどき珍しい、紙マッチだった。
 セフィロス自身はライターをいつも携帯しているから、マッチを使うことなどはない。紙マッチの表面を見てみると、「蜜蜂の館」と書いてあった。
 蜜蜂の館……。

「セフィロス……」

 ふつふつと怒りがこみ上げて来た。今日はバレンタインデーの一日前。バレンタインデーに近いというのに、セフィロスはこんなところに行ってたのか!
 帰ってきたら、ただじゃおかないぞ!





「ただいま……」

 セフィロスが帰ってきた時、時計の針は21時を指していた。
 慌ててリビングから飛び出して、玄関先で靴を脱いでいるセフィロスに向かって、名前を叫んだ。

「…どうしたんだ?」
「これは何だよ!」

 俺は掃除していたときに拾った紙マッチをセフィロスに突きつけた。

「…マッチだが……」
「そんなことはわかってるよ!」

 思いっきりマッチを投げつけると、パチーンと音がして、そのマッチはセフィロスの足元に落ちた。
 いつもならあっさりよけるだろうセフィロスが、額に思い切りマッチを当ててしまっていた。額の中央がうっすらと赤くなっている。
 足元に落ちたマッチをゆっくり拾いながらセフィロスは、「蜜蜂の館」と小さくつぶやいた。

「そうだよ! バレンタインも近いっていうのに、セフィロスはそんなところに行ってるなんて!」
「お前…、蜜蜂の館を知ってるのか…?」

 いきなり突っ込まれて、俺は言葉に詰まった。セフィロスを責めている俺が実は昔行ったことがあるとは言えない(目的は全然違っていたけど)。

「え、あ、あの、ちょっと、噂で……」
「そうか。噂か」

 そんな簡単に流すんだ。俺が知ってるってことはどうでもいいんだ…。
 いや、それよりも、セフィロスがどうして行ったかってことを追求しなくちゃ!

「何で、そんなとこに行ってるんだよ!」
「接待」
「はぁ?」
「リーブ達に連れて行かれた。それにしても、すごいところだな…」

 すごいって思ったってことはもしや、あの、蜜蜂のコスしたお姉ちゃんたちがいる…、あの場所に……?

「あんなにたくさん、屈強な男たちがいるとは……」

 え? そっち!? そこで接待? リーブさんの趣味がわからない…。

「でも、蜜蜂の館って、本来、風俗の店だろ!?」
「そうみたいだが、どうしてそれをお前が知ってるんだ?」
「え? ああ、いや、その……」

 ああ、墓穴……。なんで、こういうところだけツッコミがするどいんだ? 普段とつっこむポイントがずれているような気がする。
 わざとなのか、そうじゃないのか、よくわからない。

「あ、あの、バイト…してた……」
「バイトか。それだったら知っててもおかしくはないな」
「…う、うん、まあ、そういうこと……」

 …俺が風俗の店でバイトしてたってことは問題にならないのか? 普段のセフィロスだったら、すごい剣幕で怒ってきそうなもんなんだけどな…。
 そういえば、今日のセフィロスはおかしい。
 俺が投げつけたマッチも避けられなかったし、つっこむところがいつもと全然違うし…。
 もしかして……。
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