鼓動
鼓動
  • 1

「コーヒー、淹れたよ」

 そう告げて、セフィロスの前にコーヒーカップを下ろす。
 んー、とだけ答えて、セフィロスはコーヒーカップを両手で持ち上げると、少し口をつけてカップをテーブルに置いた。

「まだ、苦い?」
「んーん」

 首を横にふるふると振ってから、テレビの方に視線を戻して、ニュースを読むキャスターを見つめている。
 きっと、聞こえてもいないし、何も見えてはいない。
 今日はセフィロスが月に一度だけ電池切れになる日だ。
 電池切れっていうのは俺が勝手に言ってるだけで、別に電池が必要なわけじゃない。
 セフィロスは普段、脳を人の数倍以上働かせているらしくて、脳が疲れてしまうらしい。オマケに日常から神経を研ぎ澄ましているので、その神経を休める日も必要なのだそうだ。その休息日が今日にあたる。
 そんなグダグダデー(これも俺が勝手に言ってる)のセフィロスは、別人になっちゃったのかと思うぐらいに反応は幼稚化するし、行動も予測不可能になる。面白すぎて人に話したいんだけど、セフィロスの名誉のために黙っておこう。
 午前よりは午後の方が落ち着いてきて、日が変わる頃になると、通常に近い状態になる。
 もうすぐ日が変わるから、そろそろ通常の状態になってもいいかな、と思ってたけど、どうやら、今日は時間がかかるらしい。
 グダグダデーまでの疲労度合いによって、充電時間が変わるようだ。
 テレビからの音も映像も遮断して、セフィロスは回復を待つ。
 俺はその手助けをすることはできないから、こうやって横に座って、セフィロスの様子を伺うしかできない。
 でも、近くにいるってことをわかって欲しくて、俺はだらりとソファーの上に降ろされているセフィロスの手をぎゅっと握ってみた。
 セフィロスの反応はない。
 この状態のときは普段の反応とは違うことが多いから、気にはしてない。俺が勝手に焦っているだけだ。
 このままだったらどうしようか、と。
 このままでもセフィロスはセフィロスなわけで問題はないんだけど、俺は強引で威圧感のあるセフィロスの方が好きだから。
 今は本当に何も考えてなくて、ぼんやりしている。普段の冷たいオーラとか皆無で、表情も柔らかい。
 急にセフィロスが手を握り返してきた。
 指先を絡めて、力強く握り締められる。
 もしかしたらそろそろ充電が終わるのか……?
 セフィロス、と声をかけようとしたとたん、抱きついてこられて、そのままソファーに押し倒された。

「こら、セフィロス!」

 セフィロスは俺を抱きしめたまま、一つも動かない。
 多分、甘えてる。
 普段は絶対甘えたりしない人だから、反動が来るのかもしれないな。
 セフィロスの頭を優しく撫でてあげると、さらに強く抱きしめてくる。
 俺は目を閉じて、セフィロスの重さと体温を感じようとした。それらを感じるよりも先に、身体に伝わってきたのは、鼓動。
 俺の鼓動とは違うリズムで微かに響いてくる。もっと確かに感じたくて、セフィロスに抱きつく。
 自分の鼓動と合わせるように呼吸を変える。
 重なりあった鼓動は俺とセフィロスが一つになったような錯覚をもたらし、俺は蕩けてしまいそうだった。
 こうやって一つになっていられればいいのに……。

「…セフィロス……」

 思わず呟いた俺の声に、セフィロスは反応したのか、いきなり俺の首筋に舌を這わせてきた。

「セ、セフィロス!」
「…クラウド…」

 俺の名前を呼ぶ低い声に体が揺れる。

「な、何?」
「…キス……してくれ……」

 その声が何だか震えているようで、俺はぎゅっとセフィロスを抱きしめた。普段、俺にこんなお願いをすることもない。だから余計に俺はその願いを叶えなければ、と思うし、セフィロスに悲しい思いをさせたくないと思う。
 身体を起こして、とお願いして、セフィロスに身体を起こしてもらってから、俺も身体を起こす。
 セフィロスは俺の顔を見つめたままだ、まだ、目つきが鋭くなってないから、フル充電ではないんだろう。

「あんまり、じっと見られてると、キスし辛いんだけど…?」

 無言で瞳を閉じたセフィロスの顔の綺麗さに、溜め息が出てしまう。もう何度となくこの顔を見ているはずなのに、慣れることができないでいる。
 睫毛は驚くほど長いし、鼻筋は通ってるし、唇の形は両端がちょっと上向きになってて、その口元が何となくやらしく思えちゃう。
 罪な顔だよなぁ、ホントに。
 俺はセフィロスの頬に静かに手を伸ばした。
 うっすらと瞳を開けたセフィロスに、俺は微笑んで、『好きだよ』と伝える。

「…クラウド…、俺は…」
「セフィロスは何も言わなくてもいい」

 セフィロスの首に腕を回すと、セフィロスは再度静かに目を閉じた。
 整った形の唇に自分の唇を重ねて舌を挿し入れる。
 すぐに俺の舌はセフィロスの舌に絡め取られて、口付けは深くなっていく。セフィロスの腕は俺の身体をしっかりと拘束して、胸と胸が合わさった。
 お互いの鼓動が混ざり合うように身体に響いて、俺は嬉しさと幸せをかみ締める。

 こんなに近くにセフィロスがいて、セフィロスの全てを感じられるこの俺の居場所があることに感謝を。


END
鼓動って安心するよなぁ、とかそんなことを考えてるときに思いついた話です。
単にグダグダしたセフィロスが書きたかっただけかもしれませんが…。
グダグダデーのセフィロス面白エピソードはまたの機会に。
BACK